EAファーマに聞く、IBD患者様向けアプリに込めた想い

EAファーマに聞く、IBD患者様向けアプリに込めた想い

2016年にエーザイグループと味の素グループの消化器事業が統合して発足したEAファーマ株式会社。2023年1月に炎症性腸疾患(以下IBD)患者様向けに、スマートフォンアプリ「IBDサポート」をリリースし、順調にユーザー数を伸ばしています。そこで、同社にて「IBDサポート」の開発および運営を担当する舟見氏、広報担当の奈良岡氏と阿部氏にインタビュー。同社のペイシェント・エンゲージメントの取り組みや、アプリ開発の経緯、成功のポイントをお聞きしました。

憂慮の解消に向けて、スマートフォンアプリをリリース

―スマートフォンアプリ「IBDサポート」が開発された経緯を教えてください。

EAファーマは、エーザイグループの経営理念である「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」の実現を目指して、消化器疾患に悩む全ての患者様やそのご家族、生活者の皆様の心に寄り添い、それぞれが抱える憂慮の解消に向けて幅広いソリューションの事業を展開しています。

今回のテーマであるスマートフォンアプリ「IBDサポート」の開発は、IBD患者様に対して、新しいチャネルを使ってどのような貢献ができるか模索するために、患者様が抱える憂慮を徹底的に理解することから始めました。そこで、「再燃と寛解を繰り返す中で、医師の診察の時に、自分の症状の経過を正確に伝えることができない」といった憂慮があることが明らかとなり、排便回数などの体調の記録ができるツールが必要であると認識しました。

IBDは、多い時には1日に10回以上も排便があり、その他にも腹痛や血便など、さまざまな症状がみられます。そのため、紙の手帳にメモを取るようなアナログな手段では1日に何度も記入するのが大変であり、かつ、医療機関を受診する際に自宅に置き忘れるリスクがあります。そこで症状が出た時にさっと記録でき、記録されたデータを有効活用できるようデジタルデバイスとしてスマートフォンを選択し、アプリ開発に着手しました。

舟見氏 インタビューの様子1
「IBDサポート」の開発および運営を担当する舟見氏 インタビューの様子①

―先行していた他社のIBD患者様向けアプリは参考にされましたか。

私たちが「IBDサポート」の開発に着手した時、既に他社が先行してIBD患者様向けアプリをリリースしていました。しかし、当社としては「IBD患者様の抱えている問題を解消できるアプリにするにはどうするべきか」を突き詰めて仕様を決めました。

当社は、hhc理念を実現するために、患者様や生活者の皆様の想いに共感する「hhc共同化」を行っています。これは、患者様との対話から、患者様が抱えるさまざまな憂慮や言葉に表れない想いを感じ取ることが目的で、製品の改良やこのようなアプリ開発に結びつけています。こうした「hhc共同化」を全従業員が真摯に取り組んでいるため、他社を真似るのではなく、IBD患者様がスマートフォンアプリに求める機能は何か、というあるべき姿を追求することができました。

患者様からの対話から見えてきた課題を解消する「IBDサポート」の特徴

―「IBDサポート」の特徴をお聞かせください。

IBDサポートの特徴は、主に3つあります。

1つ目は、「日々の体調の経過を簡単に記録できること」です。
体調記録は、「hhc共同化」の中で得た自身の症状の記憶が曖昧なため、医師に正確な情報を伝えることができないという憂慮を解消するために、IBDで特徴的な症状、排便の状況と、血便、腹痛、しぶり腹を記録できる機能を実装しました。

こうした体調記録は、他社のIBD患者様向けアプリでも同様の機能がありますが、私たちは、さらに憂慮解消に向けたソリューションを提供しています。具体的には、便の形状を7段階に分類した指標である「ブリストル便形状スケール」を採用しています。これにより、IBD患者様が便の形状を直感的に選択し正しい記録ができるようにしました。
※Lewis SJ, et al.: Scand J Gastroenterol 1997; 32(9): 920-924 より改変

アプリ画面1

2つ目は、「食事内容を写真から記録できること」です。
この機能は、日々の業務の中で得られた知見から仮説を立てて、導入することにしました。IBD患者様は病院で確定診断を受けた際、特に疾患の活動性が高い時には、「脂質を減らしましょう」というような栄養指導を受けます。しかし、食事の中に脂質が何g含まれているかを把握することは難しく、日々の生活の中で栄養管理を思うように実践できていないのではと考えました。
そこで、食べた食事から、どのような栄養素がどのくらい摂取できたのか、定量評価できる機能を搭載することにしました。この機能を搭載するにあたって、ライフログテクノロジー株式会社の「カロミルAPI」というサービスを採用しました。「カロミルAPI」は、食事の写真を撮ると、ライフログテクノロジーが保有している食事と栄養素のデータベースの中から、一致度が高いメニューをAIが解析してレスポンスしてくれます。このようにして、食事の内容と栄養素をアプリの中に記録できるようにしました。

アプリ画面2

3つ目は、「シンプルで使いやすいこと」です。
IBD患者様の負担を減らすため、入力項目は必要最小限にとどめました。毎日使うものなので、詳細なデータを得ることを優先して入力項目を細かく設けると継続することが負担になります。そのため、使いやすいUI(ユーザーインターフェース)にこだわりました。

患者様に寄り添う機能が評価され、想定以上のスピードで登録者数が増加

―「IBDサポート」の認知度向上施策、登録者数の獲得状況はいかがでしょうか。

「IBDサポート」の認知度向上施策は、外部企業が運営するIBD患者様向けWebサイトや雑誌への広告掲載や会員メールマガジンの配信などが中心です。

このような取り組みによって登録者数が増えています。実際に使用いただいた方からの評価も高く、「IBDサポート」の3つの特徴がIBD患者様のこれまでの悩みを解消することに役立っていると考えています。

舟見氏 インタビューの様子2
「IBDサポート」の開発および運営を担当する舟見氏 インタビューの様子②

―「IBDサポート」の現在の課題、今後の展開について教えてください。

2023年1月のリリースから半年あまりが経過し、患者様や医療関係者から多岐にわたるご意見・ご要望が寄せられています。

これらのご要望に関して、できること・できないことの選別や優先順位付けが現在の課題です。

ペイシェント・エンゲージメントとは、あるべき姿を追求すること

「IBDサポート」が成功したのは、エーザイグループであるEAファーマが掲げる「hhc理念」に全社員が共感し、IBD患者様の憂慮の解消に向け、アプリとしてあるべき姿を追求してきたからです。IBD患者様向けアプリの開発では後発であった当社にとっては、競合他社のアプリを研究して、それぞれの良い面を組み合わせて制作するという選択肢もありましたが、IBD患者様の憂慮解消を目的とすることで高い評価を得て、順調に登録者数を増やすことができました。

ペイシェント・エンゲージメントを構築するツールとして、スマートフォンアプリは非常に有力なツールです。開発にあたっては、他社動向の研究も重要ですが、患者様との対話を通じて真摯に課題を顕在化させ、あるべき姿を追求することが、成功のキーポイントであると再認識しました。


<取材協力>


EAファーマ株式会社
統合マーケティング本部 推進グループ
アソシエイトディレクター 
舟見顕彰 氏

同 コーポレートコミュニケーション部
シニアアソシエイト
奈良岡愛見 氏

同 コーポレートコミュニケーション部
阿部貴之 氏