【2024年診療報酬改定を先取り】診療報酬改定を製薬企業のマーケティングに活かす方法 4『Ⅲ 安心・安全で質の高い医療の推進』編

【2024年診療報酬改定を先取り】診療報酬改定を製薬企業のマーケティングに活かす方法 4『Ⅲ 安心・安全で質の高い医療の推進』編

2024年の診療報酬改定の個別改定項目の解説について、今回は『Ⅲ 安心・安全で質の高い医療の推進』を中心に見ていきます。この項目も、これまでの診療報酬改定の中において、継続的にさまざまな見直しや評価、加算などがなされています。今回の改定では、どのような変更があったのでしょうか?
つぶさに見ていくと、製薬企業やプロマネとして見逃せない項目があります。一緒に深掘りしてみましょう。

Ⅲ 安心・安全で質の高い医療の推進

『Ⅲ 安心・安全で質の高い医療の推進』では、直接製薬業界に関わる改定項目は少なめです。ここで理解しておくべきは、

  • 2024年の診療報酬改定では、物価上昇による病院の経営状況の悪化に対応する点数配分である
  • とはいえ、改定によって得られる点数だけでは病院の経営状況の改善は見込めず、更なるコストカットなどが継続的に取り組まれるものと考えられる。
  • このことによって、病院の採用品目の値引き交渉が難航したり、新薬の採用そのものが見送られたりなどの、予期せぬ影響が出ないとも限らない。

ということでしょう。
製薬業界に関わる改定項目を見ていきましょう。

Ⅲ-1 食材料費、光熱費をはじめとする物価高騰を踏まえた対応

Ⅲ-1の改定内容については、中央社会保険医療協議会 総会(第584回)の答申をご参照ください。

Ⅲ-2 患者にとって安心・安全に医療を受けられるための体制の評価

この項目は抗がん剤を持つ製薬企業が興味のあるところと思われます。
今回、外来腫瘍化学療法診療料の要件が、「がん診療体制の一層の整備」と「がん診療での医療機関間の連携強化」を促す内容になりました。

【具体的な改定内容】

  1. 一般不妊治療管理料及び胚凍結保存管理料の見直し
  2. 外来腫瘍化学療法診療料の見直し
  3. 遺伝学的検査の見直し
  4. 抗 HLA 抗体検査の算定要件の見直し
  5. 人工腎臓に係る導入期加算の見直し
  6. 入院基本料等の見直し
  7. 看護補助体制充実加算に係る評価の見直し
  8. 医療安全対策の推進
  9. 手術等の医療技術の適切な評価
  10. 質の高い臨床検査の適切な評価
  11. 医療機関・訪問看護ステーションにおける明細書発行の推進
  12. 新興感染症等に対応可能な歯科医療提供体制の構築

外来腫瘍化学療法診療料3の届出を行っている医療機関において外来化学療法を実施している患者さんが、連携する外来腫瘍化学療法診療料1の届出を行っている医療機関を緊急的な副作用等で受診した場合には350点が算定できます。

そのため、ターゲット先の病院がどのような届出をしているのか、実際の連携状況はどうなっているのかなどをしっかり確認してみましょう。そのような取り組みによって、複数の医療機関の連携状況の理解が深まります。患者さんの行き来があった際には適切に副作用に対処してもらい、治療を継続してもらうように提案してみましょう。

筆者が関心を持った改定項目の一つが「⑨ 手術等の医療技術の適切な評価」です。この改定項目では、『新規技術(先進医療として実施されている技術を含む。)の保険導入及び既収載技術の再評価(廃止を含む。)を行うとともに、算定回数が極めて少なく、他の技術により置き換えられている技術について、項目を削除する。』とあります。

この考え方が医薬品にも応用されると、効果がそこそこでシェアもさほど高くない医薬品が薬価収載から外れる可能性があるかもしれないと危惧しています。

にわかには考えにくいですが、一方でこれまでの診療報酬改定では、小さく入ってきた項目が徐々に広範囲に影響をおよぼし、製薬業界のビジネスに深刻な影を落としている項目も複数あります。後発医薬品の使用促進は、その際たるものの一つでしょう。

そうなる前に、自社医薬品が提供できる価値が何か?ということを、常に明確にし、メッセージとして医師に伝達する取り組みが一層重要になると考えられます。

Ⅲ-3 アウトカムにも着目した評価の推進

Ⅲ-3の改定内容については、中央社会保険医療協議会 総会(第584回)の答申をご参照ください。

Ⅲ-4 重点的な対応が求められる分野への適切な評価(小児医療、周産期医療、救急医療等)

Ⅲ-4-1 高齢者の救急医療の充実及び適切な搬送の促進

この項目では、団塊の世代の方々が後期高齢者となる2025年問題に備える見直しがありました。高齢者に多い脳卒中などの疾患の増加が予想されるため、その時急性期病院の重症患者の受け入れ態勢をどうするかが課題となっています。

今後、救急医療管理加算1および2を算定できるのは、入院時点で重症患者である場合です。経過観察や重症化のリスクがある患者さんを入院させても救急医療管理加算1および2が算定できません。

このことは、大都市圏における急性期病院間の競争の激化や、集患力の差などとして現れてくる可能性があります。そうなれば、製薬企業としてはターゲット施設の優先順位に影響が出てくるかもしれません。

【具体的な改定内容】

  1. 初期診療後の救急患者の転院搬送に対する評価
  2. 救急医療管理加算の見直し

Ⅲ-4-2 小児医療、周産期医療の充実

Ⅲ-4-2の改定内容については、中央社会保険医療協議会 総会(第584回)の答申をご参照ください。

Ⅲ-4-3 質の高いがん医療及び緩和ケアの評価

がんの治療における緩和ケアの重要性は、すでに医療者にも製薬業界にも知られていますが、さらなる緩和ケアの実践を厚生労働省は求めています。
がん専門医だけでなく、在宅医への緩和ケア関連の情報提供も重要と考えられます。
「⑥外来腫瘍化学療法診療料の見直し」は『Ⅲ-2 患者にとって安心・安全に医療を受けられるための体制の評価』の『② 外来腫瘍化学療法診療料の見直し』をご参照ください。

【具体的な改定内容】

  1. がん性疼痛緩和指導管理料の見直し
  2. 緩和ケア病棟における在宅療養支援の充実
  3. 在宅における注射による麻薬の投与に係る評価の新設
  4. 在宅における質の高い緩和ケアの提供の推進
  5. 小児緩和ケア診療加算の新設
  6. 外来腫瘍化学療法診療料の見直し
  7. がん拠点病院加算の見直し

Ⅲ-4-4 認知症の者に対する適切な医療の評価

この項目は、認知症治療薬の担当者は気をつけておく必要があるでしょう。特に④はよく見ておく必要があると考えられます。

筆者の知人の歯科医に尋ねたところ、従来から歯科医の間では、認知症患者さんのインプラントの問題が言われていました。インプラントは定期的なメンテナンス(プラークの除去、インプラント周囲炎の予防)が必要で、患者さんによりますがインプラントを入れた最初の1年は3ヶ月に1回程度、その後は年に2〜3回程度、歯科医を受診し、インプラントをメンテナンスすることが推奨されています。
ところが、患者さんが認知症になり、歯科医の受診が途絶えると、インプラントが原因となって歯茎が縮んだり、歯を支えている骨が溶けたり、埋め込んだインプラントが脱落するなどの深刻な症状が出るケースが散見されるそうです。こうなると歯科医でも手が施せないため、口腔外科による治療など、より費用と身体への負担が大きい治療をせざるを得ません。

このような状況を厚生労働省も問題視しているようで、地域医療連携の中にかかりつけ歯科医もしっかり位置付けられました。

歯科医は認知症治療薬の処方元にはならないかもしれませんが、認知症患者を診ているかもしれません。その地域内での認知症治療の啓蒙なども、今後一層重要になるかもしれません。

【具体的な改定内容】

  1. 入院基本料等の見直し
  2. 認知症ケア加算の見直し
  3. 地域包括診療料等の見直し
  4. 認知症患者に対するかかりつけ歯科医と医師等との連携による歯科医療の推進

Ⅲ-4-5 地域移行・地域生活支援の充実を含む質の高い精神医療の評価

Ⅲ-4-5の改定内容については、中央社会保険医療協議会 総会(第584回)の答申をご参照ください。

Ⅲ-4-6 難病患者に対する適切な医療の評価

この項目によって、難病患者さんの診療においてオンライン診療がさらに一般化していく可能性があります。その場合、難病治療薬の目標設定が難しくなるでしょう。地方在住の患者さんと主治医が大都市圏の難病治療の専門医と連携し、診療することになる事例が増えるかもしれません。

そうなると、治療薬の売上やディテーリングの目標設定、そしてそれらの評価をどうするかは、従来のKPIなどの設定では適切に評価できなくなる可能性があります。

難病治療薬には従来のマーケティング手法があまり通用しないことがすでにわかっています。特に希少疾患の難病の場合、セグメンテーションやターゲティングなどよりも、「どこに『患者さん』と『その患者さんを治療できる医師』がいるのか?」を探すことの方がはるかに重要です。
その観点から、難病治療におけるオンライン診療の動向は注目です。

【具体的な改定内容】

  1. 難病患者の治療に係る遠隔連携診療料の見直し
  2. 遺伝学的検査の見直し

Ⅲ-5 生活習慣病の増加等に対応する効果的・効率的な疾病管理及び重症化予防の取組推進

今回の診療報酬改定の中で、開業医や200床未満の病院にとって最もインパクトがあると考えられる項目の一つがこの改定かもしれません。
診療所や200床未満の病院は、「高血圧症」「高脂血症」「糖尿病」がこれまでの特定疾患療養管理料の対象から外れます。

【具体的な改定内容】

  1. 生活習慣病に係る医学管理料の見直し
  2. 特定疾患処方管理加算の見直し
  3. 地域包括診療料等の見直し
  4. 慢性腎臓病の透析予防指導管理の評価の新設
  5. 薬学的なフォローアップに関する評価の見直し

これまで高血圧症、高脂血症、糖尿病の患者さんに対する特定疾患療養管理料は、治療計画に基づき療養上必要な管理を行った場合に、診療所だと225点、許可病床数が100床未満の病院では147点、許可病床数が100床以上200床未満の病院では87点が、月2回に限り算定可能でした。そのため、生活習慣病患者さんを多数診ている診療所の医師や200床未満の病院にとって、特定疾患療養管理料は算定しやすい項目でした。ところが、これが算定できなくなるということです。
この背景には、先般報じられました「診療所では利益が出ている」という医療経営実態調査の内容が影響しています。

代わりに、生活習慣病管理料(Ⅰ)あるいは(Ⅱ)*として、脂質異常症を主病とする場合は610点、高血圧症を主病とする場合は660点、糖尿病を主病とする場合は760点が算定できます。(*生活習慣病管理料(Ⅱ)は、生活習慣病管理料(Ⅰ)に含まれている生活習慣病の診療の検査などを包括しない管理)
しかしこれらの点数は算定が月1回に限られ、生活習慣病管理料を算定した月から起算して6ヶ月以内は算定できません。

例えば、診療所がこれまで特定疾患療養管理料を6ヶ月間、月2回算定し続けていたら、2,700点が得られました。ところが、これが改定後、生活習慣病管理料(Ⅰ)に変わると算定できるのが6ヶ月間で610点〜760点です。したがって、診ている生活習慣病患者さんの人数が多い診療所や200床未満の病院では収入減が予想されます。

これに該当する医療機関では、対策として集患力を向上させる何らかの取り組みを検討・実施すると考えられます。また、採用品目の価格交渉でこれまで以上に厳しい値引き要求が出てくるかもしれません。

Ⅲ-6 口腔疾患の重症化予防、口腔機能低下への対応の充実、生活の質に配慮した歯科医療の推進

Ⅲ-6の改定内容については、中央社会保険医療協議会 総会(第584回)の答申をご参照ください。

Ⅲ-7 薬局の地域におけるかかりつけ機能に応じた適切な評価、薬局・薬剤師業務の対物中心から対人中心への転換の推進、病院薬剤師業務の評価

ここでは、従来から薬局薬剤師の取り組みとして求められていた「対物業務から対人中心の薬剤師業務」が、さらに見直されました。
具体的には、特に安全管理が必要な医薬品(医薬品リスク管理計画(RMP)の策定が義務付けられているなど)が新たに処方されたとき、薬剤師が患者さんに服薬指導を行うと、服薬管理指導料の加算として新たに評価されます。

薬局薬剤師の服薬指導をサポートする資料の提供など、製薬企業へのリクエストは根強く続きそうです。

【具体的な改定内容】

  1. 薬局薬剤師の業務実態及び多職種連携のニーズに応じた薬学管理料の見直し
  2. 薬学的なフォローアップに関する評価の見直し
  3. 薬局における嚥下困難者用製剤加算及び自家製剤加算の薬剤調製に係る評価の見直し
  4. 外来腫瘍化学療法診療料の見直し
  5. 入院中の薬物療法の適正化に対する取組の推進
  6. 薬剤師の養成強化による病棟薬剤業務の向上

Ⅲ-8 薬局の経営状況等も踏まえ、地域の患者・住民のニーズに対応した機能を有する医薬品供給拠点としての役割の評価を推進

こちらでも、上記同様「対物業務から対人中心の薬剤師業務」が求められます。
また、同一敷地内薬局に対する評価の見直しが話題に上りました。薬局薬剤師の興味関心が高い改定項目です。
3月下旬に筆者が病院の事務長らと話し合った際、病院側としては「薬局薬剤師にもっと活躍してもらわないと、患者さんをせっかく早期に病院から在宅に戻しても、薬局薬剤師が服薬指導を患家でフォローしてくれなければ、病院は安心して患者さんを在宅に戻せない」とコメントしていました。
今後、薬局薬剤師の努力の差が、在宅医療に移行する患者数の差として現れてくるかもしれません。

【具体的な改定内容】

  1. 調剤基本料の見直し
  2. 地域支援体制加算の見直し
  3. 休日・深夜加算の見直し
  4. いわゆる同一敷地内薬局に関する評価の見直し
  5. 連携強化加算(調剤基本料)の見直し

Ⅲ-9 医薬品産業構造の転換も見据えたイノベーションの適切な評価や医薬品の安定供給の確保等

今回の診療報酬改定では、長期収載品と後発医薬品との価格差の一部を選定療養とすることになりました。これは、患者さんの金銭の負担が増えることを意味します。
長期収載品のプロマネにとっては頭が痛い改定です。しかし、後発医薬品の供給問題が社会問題と化している現在では、長期収載品の安定供給の強みを活かすチャンスでもあります。

【具体的な改定内容】

  1. 長期収載品の保険給付の在り方の見直し
  2. 医薬品取引状況に係る報告の見直し
  3. プログラム医療機器についての評価療養の新設

診療報酬改定での製薬業界への風当たりは、相変わらず逆風

今回は2024年の診療報酬改定の『Ⅲ 安心・安全で質の高い医療の推進』の中で製薬企業に関わりが深い改定項目を見てきました。個別改定項目でも、名目上は「イノベーションを評価する」などの文言がある一方、それを享受できる製薬企業は限定的でしょう。長期収載品の選定療養なども、今後の医薬品市場に対する影響が予想されます。
だからこそ、医師の処方行動や患者さんの受療行動に影響を与えうる診療報酬改定の内容をしっかり読み込む必要があります。
次回は『Ⅳ 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上』を見ていきます。

参考資料
1) 厚生労働省資料 令和6年度診療報酬改定の基本方針の概要(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001177119.pdf
2) 中央社会保険医療協議会 総会(第584回)の答申 (https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001220377.pdf)