2021年AC広告から見る、疾患啓発や検査・受診促進の企画のポイント

公共マナーや環境問題、震災、医療などをテーマに、ときにユーモラスに、ときにシリアスに、CMやポスターなどでメッセージを発信しているACジャパン。本記事では、同団体の2021年度広告キャンペーンの中から、支援キャンペーンに選ばれた医療関連の広告を取り上げ、疾患啓発や検査・受診促進などの企画のポイントをチェックします。

ACジャパンとは

ACジャパンは、広告を通じてさまざまな提言を発信し、住みよい市民社会の実現を目指している民間団体です。公共マナー、環境問題、親子コミュニケーション、動物愛護などの時代を超えた普遍的なテーマから、スマホマナーの問題、震災、虐待、いじめ、新型コロナウイルス感染症対策など、時代の世相を反映したテーマまで、多様な広告キャンペーンを展開し、社会にとって有益なメッセージを届けるCSR活動を行っています。

医療関連でもこれまで数多くの広告キャンペーンを実施しており、過去には、骨髄バンクのドナー登録を呼びかける「メンバーが、足りない」(骨髄移植推進財団/2005年度)や、若者に対してエイズ検査受診を呼びかける「見えない連鎖(カレシの元カノの元カレを、知っていますか。)」(エイズ予防財団/2005年度)など、話題になった広告も少なくありません。

ユニークな切り口が多いACジャパンの広告からは、疾患啓発や検査・受診促進などの広告企画のヒントが得られるはずです。2021年度の支援キャンペーンに選ばれた医療関連の広告を通してチェックしていきましょう。

*支援キャンペーン:公共福祉に取り組む非営利活動団体にACジャパンの仕組みを使用してもらうキャンペーンです。ここ数年は7〜8団体を支援しています。(公益社団法人ACジャパン公式サイトより)

事例1:天才だけでは、救えない。(日本骨髄バンク)

日本骨髄バンクによる、ドナー登録を呼びかける広告キャンペーン。手塚治虫の人気漫画の主人公、天才外科医のブラック・ジャックが登場する本CMでは、数々の難手術を成功させてきたブラック・ジャックの手術シーンに、「どんなに医療が進歩しても、どんなに医者が優れていても、ドナーがいなければ治せない患者さんがいます」という逆説的なナレーションが入ります。そして、「天才だけでは、救えない。」という印象的なキャッチコピーが入り、最後はブラック・ジャックのアップとともに「あなたのドナー登録が、患者さんの命を救う」というメッセージで結ばれます。

どんなに素晴らしい腕前の名医であっても救えない命があること。白血病などの患者さんの治療には骨髄を提供してくれるドナーの存在が何よりも重要であること。そして、骨髄バンクのドナー登録は患者さんの命を救うことに直結していることを、ストレートに強く訴求しています。

URL:https://www.ad-c.or.jp/campaign/support/support_04.html

事例2:検査が、かん腎(日本腎臓財団)

日本腎臓財団による、腎臓の定期的な検査を呼びかける広告キャンペーン。本CMには落語家の林家たい平さんが登場し、腎臓のはなしという演目で、「腎臓さーん!どっか悪いのかい!」「……」「ね、無口でしょ」と、腎臓は悪くなってもほとんど自覚症状がでない臓器であることを、落語の軽妙な語り口で伝え、「腎臓だけに、検査がかん腎」と締めくくります。

途中、落ち着いた女性のナレーションで、知らない間に進行する慢性腎臓病の患者は成人の8人に1人の割合で存在し、血液検査や尿検査などの簡単な検査で発見できることを伝えており、硬軟織り交ぜた内容で、検査へのハードルを下げつつ検査の必要性をしっかりと訴えています。

URL:https://www.ad-c.or.jp/campaign/support/support_05.html

事例3:助かるはずの命(ジャパンハート)

「医療の届かないところに医療を届ける」をミッションに掲げるジャパンハートの広告キャンペーン。本CMでは、新型コロナウイルス感染症よって、人の移動が制限されたり、医療機関での受け入れがスムーズに行われなくなったりするなど、医療が届くはずのところに届かなくなる事態が国内外で発生したこの1年を振り返って、命を救うために必要な最後の一手、ラストワンマイルを担うべく活動を続けるジャパンハートの誠実で懸命な姿を描いています。

ナレーションにタレントの国分太一さんを起用して、「助かるはずの命を、助かるはずだった命にしない」という情緒的なメッセージを発することで、ながら見されることの多いテレビCMであっても印象に残りやすい工夫を施しています。

URL:https://www.ad-c.or.jp/campaign/support/support_01.html

3つの広告から見るクリエイティブのポイント

これらの広告から見えてくるクリエイティブのポイントとして、「人は広告なんて見ない」「伝えるより伝わる」「目的を徹底する」の3点があげられます。

POINT1:人は広告なんて見ない

どんなに意義のある内容でも、読まれなければ意味がありません。一般の人にとって広告は余計(邪魔)な存在であるため、興味を持たせる工夫がなければ、一方通行の情報発信で終わってしまいます。今回ご紹介した3つの広告にはそれぞれ、「ブラック・ジャックという著名なキャラクターが登場」「医療と落語という意外性のある組み合わせ」「国分太一という話題性のあるタレントを起用(株式会社TOKIO設立後まもない時期)」といった引っ掛かりや話題性があります。つまり、広告の訴求内容以前に、広告に興味を持ってもらうための工夫が施されていることがわかります。「人は広告なんて見ない」というスタンスに立って、「じゃあ、どうすれば見たくなるか」から考えることが大切です。決して「広告を出せば見てもらえる」という作り手本位な思い込みを持ってはいけません。

POINT2:伝えるより伝わる

つい見たくなる工夫とともに、伝えたいことを強く印象付けることも大切です。それぞれの広告で使われている『天才だけでは、救えない。』『検査が、かん腎』『助かるはずの命を、助かるはずだった命にしない。』といったキャッチコピーには、一度聞いたら耳に残る強さがあります。例えば、『検査が、かん腎』が『腎臓の検査を受けることが大切です』という、何の工夫もないメッセージだったらどうでしょうか。言っている内容は正しくても、記憶にも印象にも残らないはずです。正しいメッセージが、伝わるメッセージとは限りません。「伝える」という発信者の立場ではなく、「伝わる」という受け手の立場に立つことが、伝わるメッセージを作るポイントです。

POINT3:目的を徹底する

広告を見た人に「面白い広告だった」「感動的なCMだった」と思ってもらえたら、それだけでも十分にすごいことですが、広告の本来の目的は「感心してもらうこと」ではなく、「期待する行動や心理変化を起こしてもらうこと」です。ドナー登録を促す、検査受診率を高める、活動の認知を高めるなど、目的はそれぞれですが「目的に向けた広告を作る」ということを、最初から最後まで徹底することが大切です。上記3つの広告では、特に1つ目の『天才だけでは、救えない。』が、目的である「ドナー登録」まで丁寧に設計された内容になっています(「ドナー登録は、18歳から54歳まで。献⾎ルームや保健所で受付けています。」と記載)。興味を持って最後まで見た人に「で、結局どうすればいいの」「何を伝えたかったの」と思わせてはいけません。

正しい広告と効く広告は両立できる

医療関連の広告はセンシティブなテーマが多く、また、表現の規制も多いため、「正しいことを正しく伝える」、その1点に終始した内容になりがちです。しかし、「正しい広告」と「効く広告」は相反するものではありません。表現の工夫次第では両立できるものです。QOLや命にも影響を与えることがあるのが医療関連の広告です。広告本来の目的を忘れずに、「正しくて効く広告」を追及する姿勢が大切です。


<参考>※URL最終閲覧2021年10月5日
・公益社団法人 ACジャパン(https://www.ad-c.or.jp/index.html
・「天才だけでは、救えない(支援キャンペーン)」公益社団法人 ACジャパン(https://www.ad-c.or.jp/campaign/support/support_04.html
・「検査が、かん腎(支援キャンペーン)」公益社団法人 ACジャパン(https://www.ad-c.or.jp/campaign/support/support_05.html
・「助かるはずの命(支援キャンペーン)」公益社団法人 ACジャパン(https://www.ad-c.or.jp/campaign/support/support_01.html
・ジャパンハート、7月1日より新たなAC広告を展開 ナレーションに国分太一氏が協力ー国内外で活動の幅を広げる現場を描くー(https://www.japanheart.org/topics/press-release/210701.html