診療報酬改定からみえてくる、今後の医療機関の動向と製薬マーケティング

診療報酬改定により、医療現場の状況は大きく変わっていきます。本記事では、改定のポイントを押さえるための“読み方のコツ”や、2020年度改定のポイントについて解説。さらに、次期改定の動向やそれに伴い製薬企業が注力していきたいマーケティング戦略について紹介します。 

診療報酬改定の動向で製薬企業も注目すべき点とは?

ご存知のように、医療機関の経営は診療報酬を原資に行われており、基本的に2年に一度改定されています。診療報酬の1点の変化が医療機関の収支に大きな影響を与えるとあって、その動向は医療機関にとって大きな関心事となっています。

しかし、診療報酬改定の動向で注目すべきことは、診療行為や薬価の変化だけではありません。診療報酬は、その評価によって医療機関の仕組みや患者さんの流れを変えることを目的の一つとして改定が行われており、政策誘導の手段として用いられています。

つまり、診療報酬改定の動向を見れば、国が進めていきたい方向性が見えてきますし、それは医療機関が今後注力していくべき方向性を意味します。

国が進めていきたい「オンライン診療」と「タスク・シフト」

2020年度診療報酬改定(以下、2020年度改定)で評価が拡大した、オンライン診療と医師のタスク・シフト/シェアについて詳しく解説します。

オンライン診療に関する診療報酬改定の動き

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、この1~2年でオンライン診療が急速に進みました。

遡れば、へき地や離島における特定の慢性疾患における再診のみで行われてきた遠隔診療。2018年度診療報酬改定では新たな技術を含む先進的な医療技術の適切な評価として、オンライン診療料とオンライン医学管理料が新設されました。2020年度改定では対面診療の補完的な役割を果たすべく大きくルールが変えられ、より身近なものとなりました。

オンライン診療の今後

こうしたオンライン診療にまつわる制度の緩和・拡大は、安全性や信頼性を担保できる制度の構築や対面診療との収支差に関する課題をクリアしながら、今後ますます進められていくことでしょう。それはつまり、オンライン診療を進めることが医療機関にとっての追い風となることを意味しており、取り組むべき課題であるといえます。

オンライン診療は本来「対面診療の補完」という位置付けで、初診では原則行えませんでした。しかし、新型コロナウイルス感染症が各地で拡大し始めたことを受け、政府は2020年4月、オンラインや電話による診療を条件付きで初診から認めました。当時はあくまで感染拡大期のみの時限的な措置でしたが、政府はその後、初診からのオンライン診療を恒久化する方針を決定しました1)

「医師のタスク・シフト/シェア」とは

医師の働き方改革の一環として、医師から多職種へのタスク・シフト/シェアが進められています。

  • タスク・シフトとは:他の職種に業務を移管すること
  • タスク・シェアとは:複数の職種で業務を共同して行うこと

膨大な予算が充てられたタスク・シフト/シェア

厚生労働省は2020年度の予算に、タスク・シフトに取り組む医療機関への支援など医療従事者働き方改革の推進の経費として69億円を計上しました2)。医療機関全体としての効率化や、他職種も含めた勤務環境改善への取り組みを進めたい狙いがあり、この予算規模を見ても国の本気度が分かります。

タスク・シフト/シェアで医療の現場はどう変わる?

医師の業務のシフト/シェア先として複数の職種が挙げられています。現在、検討されている「看護師」「薬剤師」へのタスク・シフトに関する業務の一部を紹介します。

看護師:特に、「特定行為研修を修了した看護師」は医師または歯科医師の包括的指示のもとで、プロトコールに基づいて38の診療上の補助(特定行為)について推進していく3)、としています。
薬剤師:事前に取り決めたプロトコールに沿って、処方された薬剤の変更(投与量・投与方法・投与期間・剤形・含有規格等)や薬の効果・副作用状況の把握、服薬指導の実施などを行うことを推進していく3)、としています。

これにより看護師は医師の補助的な役割をより強めていき、一方、薬剤師は、自己注射の実技指導を患者さんに行ったり、処方変更を医師に提案したり、薬剤のプロとして存在感を高めていくでしょう。製薬企業にとっては、特に病院薬剤師に対する薬剤の情報を提供する必要性・重要性が今後ますます増していくことが予想されます。

基本方針から改定のポイントを把握する

ここで、2020年度改定の基本方針をもとにこの時の見直しのポイントを見てみましょう。

診療報酬改定の基本方針は、社会保障審議会(社保審)の医療保険部会と医療部会が重点課題や具体的な方向性を定めたものです。2つの部会は毎回、診療報酬改定の前年に基本方針をまとめます。中央社会保険医療協議会(以下、中医協)ではこの基本方針と、内閣が予算編成の過程で決める改定率を前提に点数設定の議論を進めていきます。

従って、点数設定のベースとなる基本方針を見ればその年の改定の重要なポイント、トレンドを把握できるのです。

令和2年度診療報酬改定の基本方針
出典:厚生労働省 01令和2年度診療報酬改定の概要(https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000691038.pdf

基本方針から見た、2020年度改定のポイント

基本方針に掲げられた項目から、本改定で実際に評価が拡大・充実された項目を以下に挙げます4)

1. 医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進

  • 地域医療体制確保加算の新設
  • 医師等の従事者の常勤配置・専従要件に関する要件の緩和(外来化学療法加算、ウイルス疾患指導料など)
  • 病棟薬剤業務実施加算の評価の充実 など

2. 患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現

  • 地域包括診療加算の施設基準の緩和
  • 小児かかりつけ診療料の要件緩和
  • 診療情報提供料Ⅲの新設
  • オンライン診療の算定要件の緩和 など

3 医療機能の分化・強化、連携と地域包括ケアシステムの推進

  • 紹介状なし大病院受診の定額負担、400床から200床へと拡大
  • 入院時支援加算の充実
  • 医科歯科連携の推進(歯科医療機関連携加算2の新設) など

4 効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上

  • バイオ後続品を導入した場合の評価の新設
  • 一般名処方加算の評価の見直し(点数引き上げ)
  • 薬剤総合評価調整加算の見直し
  • 退院時薬剤情報連携加算の新設 など

*各項目の詳細については、2020年度改定の答申時の資料をご確認ください。

診療報酬の“読み方のコツ”プラス評価とは

厚生労働省の資料、特に診療報酬に関してはとても難解で、読み解くのに苦労される方も多いのではないでしょうか。
診療報酬改定では、点数の新設や引き上げのほか、プラス評価を意味するさまざまな言葉が出てきます。診療報酬改定資料を読み取る際の参考のため、以下にまとめます。

診療報酬改定においてプラス評価を意味する文言

  • 診療報酬点数の新設
  • 診療報酬点数の引き上げ
  • 評価を充実する
  • 算定要件の緩和
  • 施設基準の緩和
  • 算定対象(疾患など)の拡大・追加  など

一方、マイナスに転じる評価においては、「点数の引き下げ」のほか「要件の見直し」「~の適正化」「~の是正」といった文言が用いられます。

製薬企業必見、今後の医療機関の動向とマーケティング戦略

製薬企業は2022年の診療報酬改定を見据え、どこに着目し、どのようにマーケティング戦略を練っていくべきか。今後の医療機関の想定されうる動向とともに、解説します。

1. 医師のタスク・シフト/シェアの推進

2021年7月7日に開催された中医協総会では、2022年度診療報酬改定(以下、次期改定)に向けた主な検討内容について示されています5)

なかでも注目したいのは、「働き方改革の推進」が引き続き掲げられている点。次期改定でも、タスク・シフティングをはじめとする働き方改革の取り組みが重点課題として進められていくことが予想されます。それに伴い、製薬企業にとっては、医師がより効率的に情報を得られる仕組みづくりや、薬剤師への情報提供といったアプローチが重要性を増していくことでしょう。

2. オンライン診療のさらなる拡大

病院団体などが出す診療報酬改定の要望書も、次期改定を見据えるうえで重要です。

2021年4月、日本病院会など15団体による「日本病院団体協議会」は、「医療におけるICTを推進するための診療報酬上の評価」「救急医療の充実」など6項目を求めました6)。新型コロナウイルス感染症の収束の見通しが立たない現状で、今後もオンライン診療による受診のニーズは高まると予想されます。オンライン診療に関する算定要件の緩和など診療報酬上の評価はさらに拡大していくことでしょう。

このような推測から、製薬企業のマーケティング戦略においては、クリニックや調剤薬局に対するオンライン診療、特にオンライン服薬指導に関する情報提供はニーズがあると予想されます。オンライン服薬指導については未だ普及していない状況であり、製薬企業は、残薬管理や服薬アドヒアランスに関しても介入しやすいオンライン服薬指導を、デジタルツール等の推進によりサポートしていくことができるかもしれません。

3. 進む「治療用アプリ」の保険適用

2020年12月、ニコチン依存症の治療のための禁煙アプリが、医療機器として保険適用となりました。これを契機に、ベンチャー企業や大学、製薬企業を中心に、2型糖尿病や高血圧、乳がん患者支援などさまざまな疾患における治療のためのスマートフォンアプリの研究開発が進められています。

2021年8月4日に開催された中医協保険医療材料専門部会は、こうした「プログラム医療機器」への評価の考え方を検討していくことに合意し、次期改定に向けて議論を進めていくこととしました7)

2020年度の改定でも、「医療におけるICTの活用」を重点課題として掲げており、今後、こうした治療用アプリの保険適用は進んでいくと考えられ、製薬企業の参入が活発化することが予想されます

診療報酬改定に伴う情報ニーズの変化にあわせた製薬マーケティングを

次期改定でも引き続き、「働き方改革」「オンライン診療・オンライン服薬指導」「医療のICT活用」といったキーワードが注目となりそうです。なかでも、終わりの見えない新型コロナウイルスの感染拡大の状況を考慮し、オンラインを活用した診察や医学管理など、同感染症への対応は次期改定でも推進していくことが予想されます。

診療報酬改定により、都度、医療機関・医療従事者の情報ニーズは変化していきます。製薬企業は、今後の医療機関の動向に着目しながら、本記事で紹介したような医療従事者の情報ニーズを汲み取り、マーケティング戦略を検討してくことが求められます。


<参考>(2021年8月25日最終閲覧)
1)厚生労働省、「第16回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(令和3年6月30日)資料1(https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/000799149.pdf
2)厚生労働省、令和2年度 予算案の主要事項(https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/20syokanyosan/dl/01-02.pdf
3)厚生労働省、医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会(令和2年12月23日)議論の整理(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000720006.pdf
4)厚生労働省、中央社会保険医療協議会 総会(第451回)(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000593388.pdf
5)厚生労働省、中央社会保険医療協議会 総会(第482回)、総-1(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000802106.pdf
6)一般社団法人日本病院団体協議会、令和4年度(2022年度)診療報酬改定に係る要望書【第1報】(http://www.hospital.or.jp/pdf/06_20210416_01.pdf
7)厚生労働省、中央社会保険医療協議会保険医療材料専門部会(第111回)、会議資料全体版(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000816099.pdf