カンヌライオンズ2021、健康・医療関連のグランプリに見るクリエイティブのアイデア

カンヌライオンズ2021グランプリ

世界最大規模を誇る広告賞「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(以下、カンヌライオンズ)」が2021年6月21日~25日までオンラインで開催されました。本記事では健康・医療関連の「Health & Wellness Lions」「Pharma Lions」「Lions Health and United Nations Foundation Grand Prix for Good」から各部門のグランプリ作品をご紹介します。

~カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル~
世界にある数々の広告・コミュニケーション関連のアワードやフェスティバルの中でも、エントリー数・来場者数ともに最大規模を誇る。全28部門に40,000点を超える応募が集まり、広告を超えたさまざまな業界からの注目度も益々高まっている。

2年ぶりの開催、健康・医療関連のグランプリは?

国際広告賞の中でも、応募作品数や規模が世界最大級で、特に重要なアワードとして認識されているカンヌライオンズ。昨年は新型コロナウイルスの影響により開催が見送られたため、2021年は2年分(2019年7月1日~2021年1月31日)の作品が審査対象となりました。「Health & Wellness Lions」「Pharma Lions」「Lions Health and United Nations Foundation Grand Prix for Good」といった健康・医療関連の部門でグランプリを受賞した作品は、どのようなクリエイティブを発信したのかを紹介します。

Health & Wellness Lions部門

一般向け医薬品および健康に関する啓蒙やコミュニケーションを審査する「Health & Wellness Lions」では、『#StealOurStaff』(Beco)と『#wombstories』(Bodyform)がグランプリを受賞しました。

#StealOurStaff(Beco)

イギリスでは障がい者雇用に積極的な企業が少なく、約110万人の障がい者が職に就けずにいると言われています。そのような中、イギリスの老舗石鹸ブランドBECOは、実に従業員の80%が障がいを持つ人で構成されています。そこで同社ではOOH(屋外広告)を活用し、全国の雇用主に向けて「#StealOurStaff(私たちの従業員を盗んでみろ)」というメッセージを発信。大手メーカーの実名を挙げて引き抜きを促したり、自社の商品パッケージに従業員の顔写真と職務経歴書をプリントするなどもして、挑発的な内容で障がい者に対する雇用機会拡大を訴えました。圧倒的な本気さとユニークさを併せ持ったクリエイティブです。

#wombstories(Bodyform)

生理、激しい下腹部の痛み、妊娠・出産、不妊治療、流産、更年期の症状、子どもを生まない選択などは、気軽に話したり相談したりしにくい「恥ずかしい」テーマとして捉えられがちです。そこで、イギリスの生理用品メーカーBodyformは、これらのテーマを日常でも話しやすくオープンにすることを目的に短編動画「#wombstories」(子宮の物語)を制作。エミー賞受賞監督が手掛けた本動画は、アニメーションと実写を組み合わせて生理や子宮に関するさまざまな状況を表現し、考え方や生き方の多様性なども伝わる内容になっています。
女性のリアルな苦難を描いた動画は多くの共感を得て1億回以上も視聴され、生理用品の売上シェアにおいても同社はイギリス国内で8.1%もアップしました。テーマの共感性と、重いテーマであっても重くなり過ぎないトーンに仕上げた緻密なクリエイティブが、キャンペーンを成功に導いたポイントと言えます。

Pharma Lions部門

医療関係者向けのコミュニケーションを審査する「Pharma Lions」では、『SICK BEATS』(Woojer)がグランプリを受賞しました。

SICK BEATS(Woojer)

嚢胞性線維症は、特定の分泌腺が異常な分泌物を産生し、それによって組織や器官、特に肺や消化管が損傷を受けてしまう遺伝性疾患です。アメリカには、難病である同疾患に悩む子供たちが約3万人いて、治療(患者の体格にあったベストのようなものを衣類の上から装着。ベストにはジェネレーターから空気を断続的に送られるエアホースが接続されており、空気圧による圧迫とリリースの繰り返しで、高頻度に胸壁を振動させる)は、我慢を強いるものでした。
そこで、ウェアラブルデバイスブランドのWoojerは、40Hzの音波振動を与える治療法に着目。音楽配信サービスのSpotifyと連携し、同サービスのライブラリにある40Hzの周波数の曲が視聴できるベスト『SICK BEATS』を開発。「治療」と「音楽視聴」を融合させた卓越したクリエイティブで、治療の時間を笑顔で過ごせる時間に変えました。

Lions Health and United Nations Foundation Grand Prix for Good部門

非営利団体や慈善団体のために制作された作品を対象にした「LIONS HEALTH AND UNITED NATIONS FOUNDATION GRAND PRIX FOR GOOD」では、『AddressPollution.org』(Central Office of Public Interest)がグランプリを受賞しました。

AddressPollution.org(Central Office of Public Interest)

健康に深刻なダメージを与える大気汚染は、見えないために軽視されてしまいがちです。そこで、イギリスのクリエイティブ業界におけるNPO団体のCOPI(Central Office of Public Interest)は、つい自分事化してしまう施策を展開しました。ロンドンを20メートル四方のマス目に分割して、約600万カ所で二酸化窒素(NO2)濃度を計測し、このデータをもとに住所ごとに5段階で大気汚染レベルを評価。健康と不動産価格に及ぼしうる影響などを可視化して、デジタルプラットフォームで公開しました。大気汚染には関心が低くても、自分の不動産価値には関心の高い市民は大勢います。
狙い通り、この取り組みは大きな反響を呼び、データが不動産ポータルサイトの物件情報に活用されたほか、不動産業者はその土地の大気汚染情報を開示するという法改正にも至るなど、社会を大きく動かすことに成功しました。「環境問題」という自分事になりにくいテーマを、「お金」という関心事になりやすいテーマと上手く結びつけた、インサイトを深くとらえたクリエイティブです。

前回のPharma Lions部門のグランプリを紹介

最後に振り返りとして、2019年の「Pharma Lions」部門のグランプリをご紹介します。受賞したのは、『Breath of Life』(GSK)です。2年前の受賞作品とはいえ、アイデアやクリエイティブ、そして課題解決力には非常に強い説得力があります。

Breath of Life(GSK)

大気汚染の深刻な中国では、呼吸器疾患である慢性閉塞性肺疾患(COPD)のケアも深刻な問題となっています。そこで製薬会社のGSKはCOPDの早期発見を目的に、息を吐きかけるだけでCOPDの自己診断ができるWeChat上で使用するアプリを開発。利用者がスマートフォンのマイクに向かって息を吹きかけると、水墨画アーティストが描いた木が伸びて花が咲き誇ります。肺活量によって木の成長の度合いが変わり、一定値以下の場合はCOPDの疑いがあるため病院で検査を受けるよう推奨されるという仕組みです。参加意欲を高めるためにゲーム性を持たせ、かつ、見た目にも美しいアートを融合させた優れたクリエイティブと言えます。

どんな課題を解決するためのアイデアかを意識する

どのグランプリ作品も斬新でユニークなアイデアに溢れています。しかし、斬新さやユニークさはあくまでも手段であり、目的は課題の解決に他なりません。カンヌライオンズに限らず、世の中には面白いアイデアがたくさんあります。それらを、最終的なアイデアだけに注目するのではなく、何のためのアイデアなのか、どんな課題を解決するために生まれたアイデアなのか、という視点で見ることで、課題とアイデアの関係性や距離感が理解でき、自身の仕事での企画立案に活かせるヒントがより得られるようになるはずです。

<参考>※すべて2021年7月5日最終閲覧
https://www.canneslionsjapan.com/
https://predge.jp/212815/
https://www.advertimes.com/20210622/article355331/
https://forbesjapan.com/articles/detail/42108/1/1/1
https://minds.jcqhc.or.jp/n/cq/D0002726