【プロマネTips. 1】製薬企業のプロダクトマネージャーは、今何に困っている?/コラム

2021年2月現在、いまだに新型コロナが猛威を振るい、感染拡大が続いています。振り返れば2020年から製薬業界全体も新型コロナ対策の影響を受け、どこの製薬企業も、そのプロダクトマネージャー(以下プロマネ)も、期初に企画していたマーケティングプランの立案とその実行が思うようにできなかった1年でもありました。
このような状況下、プロマネは何に困っているのか?その解決策は?このコラムを通して、皆さんと一緒にみていきたいと思います。

プロマネの困りごとを整理すると・・・

この1年、製薬企業のプロマネや営業企画、コマーシャルエクセレンスなどの様々な部署と話し合いをしていると、「どうやったら、MRは医師に会えるようになるのか?」「医師がMRからのメールを開封してくれない。本社のCRMから配信したメールも、医師は開封してくれない。どうしたらよいか?」といったことに困り、あちこちに相談していることが多いようです。

ですが、プロマネの困りごとには、コロナ禍に関わらず困っていることもあります。これらのプロマネの多様な困りごとをまずはシンプルに3C分析で整理してみましょう。以下に一例を示します。

Customer                  <Politics(政治)>
・2021年4月からの毎年薬価改定で、担当製品の薬価が下がる
・新型コロナを2022年1月末まで指定感染症として扱う(そのため医療機関の負担が続き、医師の多忙な状況が予想され、MRが医師に会えない状況が続く可能性がある)
・2020年の診療報酬改定以降、医師の働き方改革が推進され、MRと医師の面談時間や場所に変化が出てくる可能性がある
<Economy(経済)>
・新型コロナの感染予防のため患者の受診控えが発生し、製品の処方機会が失われた時期があった
・2020年11月時点で、医療費の消費が増加していた
・2020年の有効求人倍率は1.18倍、下げ幅45年ぶりの大きさで休業者が最大となり、完全失業率は2.8%と景気回復の見込みが立たないため、患者の受診行動も予断を許さない
<Society(社会)>
・ 2021年1月31日現在、新型コロナの感染は全国的に流行しているが、特に東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県には緊急事態宣言が発出され、措置が講じられ、患者の受診行動が変化する可能性がある
<Technology(技術)>
・新型コロナワクチンが供給される(2月下旬予定)
・リモート面談のツールがMRにも医師にも普及し、新たな情報提供チャネルになってきたが、MRの面談数が増えない
など
Competitor・多数のウェブ講演会が乱立している
・デジタルチャネルの取り組みは、製薬企業間で差がある
・新薬の上市や適応拡大は、新型コロナに関係なく行われ、売上を伸ばしている競合もある
・医師情報、競合メーカーの情報等が収集しにくい
・ごくごく一部では、医療者に有益なウェブカンファレンスを企画、実行しているMRがいる
など
Company・競合他社の活動が見えにくい、MRからも情報が得られにくい(医療機関の訪問規制などによる)
・毎年薬価改定で薬価ダウンが見込まれるが、会社は売上アップを要求してくる
・新薬の上市や適応拡大は新型コロナに関係なく行われ、経営陣は売上目標の設定に際し新型コロナの影響を考慮しない
・製薬企業によっては、プロモーションのデジタル化、デジタルチャネルの活用などが遅れており、MR以外のチャネルでの情報提供が不十分な状況だ
・自社MRが医師に会えない、アポイントももらえないので、製品メッセージを伝える機会が失われている
・医師が必要とする情報や知りたいことに、MRが対応しきれないことがある
・自社製品の疾患領域の診療ガイドラインが改訂される
・自社のMRの中に、医師からメールアドレスを取得できなかったり、自社サイトへのオプトインをもらえないMRがいて、デジタルチャネルでもカバーしきれない医師がいる
など

プロマネがやらなければならないことは山積み

前述の3C分析の内容は、多くの製薬企業のプロマネに共通することです。プロマネによっては、または製品によっては、一層詳細な取り組みが必要だということもあることでしょう。プロマネは、誰もがいつも極めて多忙です。今のプロマネにとって、一番の困り事は「やらなければならないことが多すぎる」「時間が足りない」ということかもしれません。

3C分析で提示した個別の課題をどのように解決するか?ということも大事ですが、プロマネとして目をつけるべきところは、実は個別の課題ではないかもしれません。コロナ禍によってビジネス環境もゲームのルールも激変した製薬業界において、プロマネの仕事のやり方や物事の考え方は従来のままというのが、もしかすると真の課題かもしれないからです。

天才〇〇は、このような名言を残した

「同じことを繰り返しながら、違う答えを求めているなんて、狂っている」と言ったのは、かのアルベルト・アインシュタインです。この言葉に基づいて今一度マーケティングプランを見直してみると、そのプランや製品メッセージは現在の医師やMRが置かれている「変化してしまった環境」にフィットしていないプラン、メッセージかもしれません。そして、そのプランやメッセージの考え方そのものも、現在のビジネス環境にフィットしていないかもしれません。

2020年のマーケティングプランやメッセージを作る際に用いたフレームワークやデータが2019年以前のものであるならば、現在のコロナ禍の製薬業界や疾患領域、顧客である医師や患者の状況やニーズを正しく反映していない可能性があります。マーケティングプランの立案やメッセージの作り方の方法は変わらなくても、データやビジネス環境のファクトが変化したので、2021年の製品のマーケティングプランの立案は、従来のプランニングとは雰囲気が大きく異なったというプロマネも多いようです。

さらに深く突っ込んで考えると、プロマネにそのような思考の落とし穴に導いてしまっている思考があるのではないでしょうか。それは誰の思考か? 
例えば、プロマネの上司の思考です。

プロマネの上司は、最新のビジネス環境を理解しているか?

多くの場合、プロマネのプランは上司の承認が必要です。その際、あまりに斬新なプランは上司によって修正を指示されることがあるでしょう。時には上司が全く理解できないこともあるかもしれません。上司が分からない、納得できないプランは、上司が分かるように修正させられる運命にあります。そして上司の承認を得たプランは、当初のプランが骨抜きにされた、どこにでもあるようなプランに落ち着くのではないでしょうか。

人は、自分が分かることしか理解できません。誰もがそうです。前述のアインシュタインの一般相対性理論は、多くの人には難解に感じられるでしょう。天才の思考は、凡人にはなかなか分かりません。環境の変化に鈍感な人や時代の流れについて行けない人には、時代の最先端を切り開く人の考えは分からないのです。
一方、意思決定権者であり、プランをどうするかを意のままにできるのは上司です。だから、プランの承認プロセスにおいて、上司が理解できない斬新なプランは、上司が分かるように書き換えられるのです。

プランの丸投げ、無茶なプランが引き起こすもの

また、別のケースとして、プロマネのプランが書き換えられない場合もあります。「プロマネのプランはよく分からないが、とにかくその製品の販売目標だけは達成してくれればそれでよい」と丸投げされるケースです。

プロマネがプランを提出した際、上司から「よく分からないけど、これで売れるのか?」「いくら売れるんだ?」といわれ、「〇〇億円を見込んでいます」というと、「それでは全然足らない」と一蹴された、などという話をよく聞きます。そして「自分でプランを作らないくせに、売上だけうるさく言ってくる。やってられない」と嘆くプロマネが非常に多いのです。プロマネの上司は、もちろんマーケティングの責任者として製品群全体の売上に責任を持っていますから、プロマネのプランをシビアに評価することは分かります。とはいえ、製品ごとの市場、製品特性、診療上のポジショニングといった現実を見据えずに売上数字だけを追うのもマーケティングの責任者としての理想的な姿とは言えません。これもプロマネの困りごとの一つでしょう。

それでもプロマネは、やらなければならない。でも、無理がたたって引き起こされる損失が・・・

このような経緯があっても、プロマネは何としてもプランを承認してもらわなければなりません。ですから、プロマネも無理して見込の売上金額を上乗せしたり、達成させるための無茶なプランを作らざるを得なくなります。そのプランは、現場のMRから見ると「こんなプラン、医師に受け入れられるわけがない。現実離れしている。とてもじゃないが、うまくいくとは思えない。やはり本社は現場のことを分かっていない」と感じられ、本社と現場が疎遠になってしまいます。

また、真面目なMRがプロマネのプランに従い製品メッセージを伝えても、医師に全く伝わらず、むしろ医師が「このMRは、患者さんのことや医療の現場を分かっていない」とMRの評価を下げるという事例も発生しています。このようなことが積み重なって、MRが医師からアポイントをもらえない、メールアドレスもオプトインももらえないといった事態を引き起こした原因の一つかもしれません。

このような「プロマネと上司」や「本社と現場」が不仲、「機能しない組織」という社内文化を持つ製薬企業は、非常に多いように感じます。

今は社会や製薬業界の変革期。プロマネは、これまで以上に大変。でも打ち手はある

このように、製薬業界を取り巻く大きな環境変化、上司の能力、製薬企業内の社内文化などは、プロマネのマーケティングにも大きな影響を及ぼしています。
この問題の本質には「社内外のコミュニケーションが機能していない」「プロマネが着目しているポイントがずれている」などが挙げられます。

このコラムではこれから、プロマネが直面している様々な課題について、課題を「真の課題」に至るまで深堀りし、どのように解決するのが良いかを考え、時には視点を変え、多角的にプロマネの課題解決のヒントを提示していきます。

今回は、プロマネの皆様が現在どれくらい大変なのか、何が大変なのか、なぜ大変なのかといったことをざっくり見てきました。次回以降は、個別の課題やプロマネの困りごとにフォーカスを当て、さらに深堀りし、その上で新たな処方箋を出していきます。


【参考】(2021年2月15日最終閲覧)
1:中医協資料 https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000706836.pdf
2:厚生労働省健康局長通知 https://www.mhlw.go.jp/content/000716517.pdf
3:第22回医療計画の見直し等に関する検討会 資料https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000689745.pdf
4:株式会社三菱総合研究所 家計調査報告(2020年11月)https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/dep/2021/dia6ou000002m75i-att/dep20210112_2.pdf
5:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF28DFW0Y1A120C2000000/
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO68637370Z20C21A1MM0000/
6:内閣官房 新型コロナウイルス感染症対策 https://corona.go.jp/emergency/
7:接種についてのお知らせhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00218.html
8:ミクスオンライン https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=70392、エム・シー・アイ 医師版マルチメディア白書 https://www.medical-ci.co.jp/digital-marketing/white-paper/