MDMD2020レポート/オウンドサイトにおける新たな挑戦 ~vMR(バーチャルMR)誕生秘話~

MDMD2020レポート/オウンドサイトにおける新たな挑戦 ~vMR(バーチャルMR)誕生秘話~

2020年9月、医薬品マーケティングの新時代を展望するオンラインカンファレンス「Medinew Digital Marketing Day2020」を開催。第2部「オウンドサイトコンテンツにおける新たな挑戦~vMR(バーチャルMR)誕生秘話~」のセミナー内容を紹介します。

2020年9月29日、Medinewにて「Medinew Digital Marketing Day2020」と題して、最新の医薬品マーケティング事例やデジタルソリューションについてのオンラインカンファレンスが行われました。本記事では、第2部「オウンドサイトコンテンツにおける新たな挑戦~vMR(バーチャルMR)誕生秘話~」を紹介。大日本住友製薬株式会社マーテック戦略推進室の田中友幸氏が演者、株式会社医薬情報ネットの小川彰吾氏がモデレーターを務めた内容をまとめました。

オウンドメディアの課題とリニューアルの目的

MRを13年経験後2015年より現在のマーテック戦略推進室に勤務する田中氏が、昨年リニューアルした大日本住友製薬のオウンドメディアについて、当時の課題やサイトの目的を説明しました。

オウンドメディアの課題

今の医療業界や製薬業界の背景により、下記のような課題がオウンドメディアにあったそうです。

・医療機関への訪問規制が強化され、医師とのタッチポイントが減少
・スマホやタブレットの普及に伴い、デジタル指向の高い医師が増加
・パンフレットやサイトコンテンツのルールである作成要領に対応した新コンテンツの必要性
・ユーザーアクセスのきっかけとなるコンテンツ拡充の要求

業界ルールの改定により、サイト内コンテンツの変更が迫られたり、以前の資材が使えなくなったりしました。そのため大日本住友製薬でも、オウンドサイト内で使えるコンテンツが少なくなったそうです。さらに現在はコロナの影響でMRの訪問がより難しくなり、オウンドメディアでの情報提供の重要性が高まってきています。

リニューアルしたオウンドメディアの目的

コンテンツの拡充を図る上で、下記のものを目的として挙げたそうです。

・医師との継続的なタッチポイントを確保する
・医療関係者が自社製品関連疾患の理解を深める
・医療関係者が自社製品特性を知り、理解する

これら課題や目的に対して、医薬情報ネット社からいくつかサービスを提案。その中から、「Vtuber(ブイチューバ―)」というサービスを田中氏は採用しました。

Vtuberとは

採用されたVtuberについて、医薬情報ネット社の小川氏が解説しました。

Vtuberは、Virtual YouTuber(バーシャルユーチューバー)の略称で、YouTubeにて動画を投稿・配信するCG(コンピューターグラフィック)で描写されたキャラクターおよび配信者のことを指します。リアルな人ではなくVtuberを用いるメリットは、Vtuberとテクノロジー(VR/AR/SG/AIなど)の相性がよいこと。

・仮想現実「VR」上に登場させ、仮想世界を現実世界に近くさせる
・拡張現実「AR」の活用で、キャラクターが画面を越えて現実世界に出現できる
・「5G」が普及すれば、リアルタイムでVtuberのライブ配信が可能になる
・「AI」とキャラクターを合わせて、接客するCGキャラクターをつくることもできる

このような特徴を持つVtuberの提案を受け、田中氏が抱いた印象や社内での反応はどうだったのでしょうか。

「以前よりWEBサイト内にコンシェルジュのようなキャラクターを置きたいと思っていました。Vtuberはそのイメージにぴったりと当てはまるため、すぐにでも始めたいというのが私の感想でした。社内の動画制作に携わる元MRの社員からも、『同じように考えていた、ぜひやろう』と後押しがあり、すぐに企画を進めようとなりました」と田中氏。

vMRについて

大日本住友製薬では、以前より女性社員が自社製品の紹介を行う動画配信を実施していました。2017年には、その女性社員のCGキャラクターで動画コンテンツを作成する、という取り組みを行ったことがあるそうです。ただ3年前の社内技術では、CGキャラクターの動きの設定などに工数がかかり、断念した経験があります。しかし医薬情報ネット社から提案されたシステムを利用すれば、動き設定の工数が減り、内製化が実現できることになったそうです。

Vtuberの機能を使って作成されたvMR(バーチャルMR)は3名。それぞれに個性を持たせ背景をしっかりと作成することで、親近感を湧いてもらえるように工夫しています。

営業所長である大友住伸MRは、兄貴肌であり部下からの信頼が厚い。
中堅MRである日高美久MRは、歴女で、育休明けの時短勤務中。
若手MRである本田誠也MRは、元気いっぱいでデジタルに精通。

これらのキャラクター背景は、医薬情報ネット社とともに考案したそうです。組み合わせると大日本住友の会社名になるように、人物名も工夫されています。

vMR活用事例

実際にこれらのキャラクターを使って、どのようなコンテンツを製作しているか田中氏が説明しました。

説明会動画

一つめは、vMRを使った説明会動画です。説明会スライドの横にvMRを配置することで、リアルな説明会の雰囲気を演出できます。

vMRの重要なポイントは、リアルな動き。動き設定の工数がCGキャラクター作成のネックだったという田中氏ですが、医薬情報ネット社のシステム導入により、簡単に動画作成ができるようになりました。システムをインストールしたPCのカメラで撮影すると、自分の動きとvMRの動きがリンク。まばたきや口といった表情の動きに加え、首の動きもリンクし、臨場感のある説明会動画を作成することができます。

動きの設定工数が圧倒的に少なくなったことで、社内に撮影スタジオと編集室を完備する大日本住友製薬では、収録から編集を即日に完了し、迅速に社内審査へと通せるように。これまでMRが担ってきたスピード感ある情報提供が、オウンドメディアでもリアルな雰囲気で可能となりました。

エンタメコンテンツ

vMRの他の使い方に、エンタメコンテンツがあります。

歴女であるMRが織田信長を通して、糖尿病について話すストーリー。vMRのキャラクター背景をしっかりと設定することで、エンタメコンテンツにも幅が広がっています。田中氏によると、この動画から製品情報へのリンクをふんでもらえることがよくあるそう。さらに気楽に見られるエンタメコンテンツは、ファンづくりにも貢献しているそうです。

ちなみに、動画を閲覧した医療関係者の反応はどうなのでしょうか。直接話を聞けるわけではありませんが、サイト下に設置している「お役に立ちましたか?」というボタンの回答によると、「はい」が非常に多く、「はい」の獲得率で1位を取ったことがあるほど、人気のコンテンツだそうです。

オウンドメディアでの動画配信は、医師が自主的に閲覧できる利便性の反面、序盤での離脱により伝えたい内容部分を見てもらえない可能性もあります。そこで気になるのが、視聴完了率です。こちらのエンタメコンテンツは、説明会動画よりも視聴完了率が高いことも。エンタメ要素を入れ、医師に興味を持ってもらい、サイト訪問のきっかけや習慣づくりに役立てるのもよいのではないでしょうか。

Vtuber採用までの経緯からリリース後の評判について

最後に皆さんが気になるVtuber採用に至る社内の反応や、リリース後の周りの反応について、小川氏から田中氏に質問しました。

小川)比較的新しい取り組みに対して、稟議が通りにくい業界だと思いますが、どのように社内を説得されたのでしょうか。

田中)私も恐る恐るだったのですが、社内から反対の声はありませんでした。審査部門から指摘を受けるかと思っていましたが、『動画の内容が社内のレギュレーションをクリアしていれば、人でもCGキャラクターでも問題ない』と言ってもらえました。よい意味で驚きましたね。

マーテック戦略推進室内は、どんどん新しいことにチャレンジしようという部署なのもあり、やってみよう!と乗り気でした。上司からは、『やってみて問題が出てきたら、その時点で考えよう』と後押しの声ももらえました。

小川)リリース後の評判はどうでしたか。

田中)社内での評判ですが、WEBサイト内で説明会動画が増えることで、製品プロダクトの担当者から、動画制作の依頼を多く受けました。MRが使うスライドをvMRも使うことで、審査も問題なくクリアでき、スライドを現場とWEBサイト両方で使えるメリットがあります。MRが直接訪問しにくい現在、がん領域や希少疾患などの専門性が高い領域に関する動画制作が増えており、プロダクトの方にもよく使ってもらっています。

社外については、直接声を聞くことが難しいのですが、プレスリリースを境に多くの問い合わせを受けるようになりました。ある医師のSNSで、「大日本がこんな取り組みしているね」とよい反応もあります。私の目にしている範囲では、ネガティブな反応は今のところありません。薬剤師からは、「説明会の参加が現在難しいので、空いている時間に製品情報を見られて助かっている」と好評だと聞いています。

小川)KPIが分かりづらいかと思いますが、どのように考えていますか。

田中)サイトコンテンツのKPIは、私たちも難しいと考えています。例えば、「このコンテンツを見たから、これだけの処方につながった」とは分かりません。そのため月並みですが、動画の再生回数・視聴継続時間・50%再生率・視聴完了率などを、KPIとしています。さらに外部の調査も利用し、vMRが説明している製品についてインターネットからどれくらい情報を入手したか、というスコアもKPIに加えています。

小川)今後の展望についてお教えください。

田中)動画の内容は今のところ製品紹介がメインになっていますが、今後は「偉人を診る」のようなライトコンテンツの第2弾を作りたいと思います。また疾患啓発や医療行政といった医療関係者のニーズに沿うコンテンツを作成したい。それを満たすものを作ることで医療関係者だけでなく、患者さんへの貢献にもつながるのではないか、と考えています。視聴者は医療関係者ですが、患者さんへの目線も大切にコンテンツ制作をしていきたいです。