MDMD2020レポート / スペシャリティファーマにおけるデータを活用した MA/MSL活動のポイントと見えてきた課題

MDMD2020レポート / スペシャリティファーマにおけるデータを活用した MA/MSL活動のポイントと見えてきた課題

2020年9月、医薬品マーケティングの新時代を展望するオンラインカンファレンス「Medinew Digital Marketing Day2020」を開催。第4部「スペシャリティファーマにおけるデータを活用したMA/MSL活動のポイントと見えてきた課題」のセミナー内容を紹介します。

2020年9月29日、Medinewにて「Medinew Digital Marketing Day2020」と題して、最新の医薬品マーケティング事例やデジタルソリューションについてのオンラインカンファレンスが行われました。本記事では、第4部「スペシャリティファーマにおけるデータを活用したMA/MSL活動のポイントと見えてきた課題」を紹介。演者をレオファーマ株式会社のサイエンティフィックアフェアーズ部 前田章博氏、モデレーターを株式会社医薬情報ネットの事業戦略室室長 笹木雄剛氏が務めた内容をまとめました。

日本 国内で開催される医学系学会は1,400以上

レオファーマが新薬の上市に向けターゲットを選出する際に活用したのが、医薬情報ネット社が提供する学会情報データベースです。医薬情報ネット社では、学会情報データベース事業・医療用医薬品マーケティングサポート事業・メディア事業の3つ事業を行っています。まずは学会情報データベースについて、笹木氏が説明しました。

1年間に開催される学会がどれくらいあるかご存知でしょうか。
笹木氏によると、

・国内で開催される医学系学会は、1400以上
・1学会の演題数は多い学会で、3000
・1学会に登場する人物数(共同演者や座長も含む)多い学会で、2万人

に上るそうです。

これほどボリュームがある学会情報を、各製薬企業が手作業でリスト化するには、膨大な手間と時間がかかります。医薬情報ネット社では、この膨大な学会情報をデータベース化し、様々なソリューションを提供しています。

学会情報データベースを活用したソリューションは、次の4つがあります。

1.ターゲット医師分析サービス
医師の学術活動を起点としたターゲット医師の選定、深掘分析支援

2.MR支援サービス
MRの生産性向上、ハイパフォーマンスMRの育成支援

3.競合企業分析サービス
競合企業の学術活動、医師関係性の分析

4.学会情報ビジュアライズサービス
学会情報の分析ダッシュボードの構築・提供

学会情報データベースからオリジナルリスト の作成

なぜ学会情報データベースを活用することになったのか、どのようにレオファーマ社で活用しているのかについて、前田氏が説明しました。

レオファーマ社について

レオファーマ社はデンマークに本社を置く、皮膚科領域に特化したスペシャリティファーマです。2020年現在、世界中に約5000人の社員をかかえ、100ヶ国以上で製品を販売しています。100年以上の歴史ある会社ですが、日本では2010年6月に設立。前田氏は設立当時からメディカルアフェアーズ部に所属しています。

前田氏が属するメディカルアフェアーズ部は、下記の3つの機能を持つ部署ですが、今回はMSLの活動について説明しています。

1.Medical Information team
コールセンターの機能を含む

2.MA in house team
メディカル戦略、パブリケーションプランを練る

3.Medical Science Liaison team(MSL Team)
対象疾患におけるMTL(メディカルソートリーダー)の先生と科学的交流

製薬会社におけるメディカルアフェアーズ、MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)の活動については、日本製薬工業が2019年4月1日に、下図に示すように制定しています。

「社外医科学専門家にという言葉が、メディカルアフェアーズ部門では、特に大事なものとなる」と前田氏。MSLは社外医学専門家と科学者として同じ立場で意見交換しなければなりません。新薬上市に向けMSLが活動するには、まずは社外医学専門家を選定していく必要がありましたが、どのように選定していけばよいか悩んだそうです。

KOLsの選定について

レオファーマ社では、社外医学専門家の条件を次のように決めました。

・対象疾患領域でのScientific influencerでなければならない
・対象疾患領域の科学的知識に精通していなければならない

この条件を満たす医師をどのように見つけていくのか、研究テーマや対象疾患領域の論文数、学会での活動内容や役割などが意見として出ました。そこで2010年設立当時、

・直近の学会で目立った先生の名前をリストアップ
・領域のトップKOLsに話を聞く
・大学のHP上で情報収集
・PubMedなどで論文をひたすら調べる

などの医師情報を社員自ら手作業でリスト化していきました。しかし膨大な時間と労力を要したにも関わらず、重要な先生を見落としたり客観性に欠けていたり、と問題が発生。「何カ月も人と労力が割かれているのに、労力のわりに精度を保持できていない」と疑問を感じ、学会情報データベースが課題解決につながると判断し、導入を進めました。

導入に当たり、対象学会、対象年数、分析キーワード、演者の評価指標などを両社で検討。対象学会のデータを基に、重要キーワードを含む演者名を軸に、一般演題・スポンサードシンポジウム・演者・座長などのタイプ別に集計する形で、ターゲット医師のリスト化を進めました。

学会情報データベースを起点にオリジナルリストを作成

レオファーマ社では、学会情報データベースを起点に様々な情報を付加し、オリジナルリストを作成しています。

・社内情報による治験関連医師などの追加
・発表論文数、対象学会での役割やガイドラインメンバー、定性調査の結果などの項目を追加
・追加項目による点数化で会社独自の重み付け、総点数ごとに並び替えるなど再集計

このような改変を行い、レオファーマ社独自のリストを構築しています。

改変したリストの活用方法

最終的に完成したリストは、リストアップした医師の順位付けやプライオリティごとにTier分けに活用したり、トップKOLsの選定や専門性の分析(ワードクラウドを使用)に役立てたりしているそうです。

レオファーマでは、MTL Segmentationを

・Influence:影響度、社会的地位
・Investigator:治験参加
・Engagement:自社との関係性
・Presentation Skill:プレゼンスキル
・Academic:学術性

の5つに分けて評価しています。

実際のリストのサンプルを前田氏が提示しました。

左に医師情報があり、先ほどの5つの項目を評価しています。
Engagement・Presentation Skill・Academicは、S~Bでランク分けしており、医薬情報ネット社の学会情報データベースをPresentation SkillとAcademicに活用しています。たとえばPresentation Skillであれば、データベースによる学会での口頭発表数や聴講した社員による評価などを合わせて、ランク分けしているそうです。

今回医薬情報ネット社の学会情報データベースを活用することで、トップKOLsのプロファイリングが可能となったり、ターゲット医師ごとの具体的活動プランの作成につながったり、といったメリットがあったそうです。「これまで手作業の客観性に欠ける方法でリスト化していましたが、元リストがあることで社内リソースが軽減でき、活動の効率化が図れた」と前田氏は話します。提供されるリストをベースに、各社の視点に立った重み付けでデータを再構築することで、医師ターゲティングの精度が高まります。これから新領域参入や適応追加する際などには、客観性のあるリスト作成とMSLの活動効率化のため、学会情報データベースを活用することに大きなメリットがあるでしょう。