セミナーレポート/製薬企業の営業改革 - デジタル・IT化の推進 / MRの機能強化について

セミナーレポート/製薬企業の営業改革 - デジタル・IT化の推進 / MRの機能強化について

MRは業務の一環として医師の学術活動や研究テーマ等に関する情報収集を進めますが、その質の向上や効率化が課題となっています。2020年7月30日開催のファーマIT&デジタルヘルス エキスポ Webinar「製薬企業の営業改革-デジタル・IT化の推進-」(主催:インフォーマ マーケッツ ジャパン)で、「『学会情報データベース』を活用したMRの機能強化について」と題し、医薬情報ネット事業戦略室室長の笹木雄剛氏が講演。MRの情報収集を効率化し、医師とのディテーリングを強化する「学会情報データベース」の活用法について、詳しく解説しました。

目指すは、個々の医師に合わせた情報提供ができるMR

どの製薬企業でもMRの機能を高めるために、さまざまな施策を展開しています。では、いったいどのようなMRを目指し、機能強化していけばよいのでしょうか。

MRの情報武装の必要性が高まる

製薬企業の営業企画やマーケティング担当から寄せられるMRの機能強化に関する悩みには、次のようなものがあると笹木氏は話します。

・本社から提供した情報をそのまま担当医師に伝えるのみで、医師の課題に応えていない。
・情報収集がMR個人のやる気や資質に依存する(情報収集が苦手なMRが一定数存在)。
・本社から提案する担当医師へのアプローチ法をMRが実践しない。
・MRが提供する情報に限界がある。
・MRから寄せられる医師情報の信頼性に疑問がある。
・訪問規制で、MRの医師情報収集に制約が出ている。

情報の活用能力や収集レベルが低いMRは一定数存在しており、「そのようなMRをいかに底上げできるかが課題である」と笹木氏。MR全体の能力を底上げするために、オウンドメディアの閲覧履歴や自社製品の納入実績などの情報を踏まえ、本社からMRに医師へのアプローチ法を提案しますが、MRが余計なお世話と感じることも多いそうです。新型コロナウイルスの影響で対面での面会禁止となる施設もあり、医師の悩みや処方動向などをMRが現場で収集しにくくなってきています。

「このような悩みの背景に、MRに関する環境変化がある」と笹木氏は指摘します。

MRに関連する環境は図で示したように変化しており、さらに、新型コロナウイルスの影響により加速しています。このような外部環境の変化に合わせ、MRのスキルや知識といった内部環境を変化させていく必要性が高まっています。

そこでキーワードになってくるのが情報武装です。医師の学術活動や研究テーマ、デジタルコンテンツの興味・関心などの情報を収集し、医師のニーズや課題を予め把握することで、医師とのコミュニケーション能力が高まり、医師に頼ってもらえるMRへと成長できるのです。

パーソナライズ化した情報提供ができるハイパフォーマンスMR

ではハイパフォーマンスMRとは、具体的にどのようなMRなのでしょうか。「ハイパフォーマンスMRとは、担当医師の問題・課題を把握し、本社から提供された情報に、付加価値を与えて情報提供できるMRである」と笹木氏。例として、A先生にWeb講演会の案内をする「ハイパフォーマンスでないMR」と「ハイパフォーマンスMR」の違いを見てみましょう。

<ハイパフォーマンスでないMR>
「A先生、今度のWeb講演会▽月〇日にあるんです。ぜひ、お時間ありましたらご視聴ください」

<ハイパフォーマンスMR>
「今度のWeb講演会は○○先生の講演です。○○先生は、先日の学会でこんな演題で発表されていました。A先生がお悩みの患者さんのヒントになるかもしれません。ぜひ、Web講演会をご視聴ください」

Web講演会の事実のみを伝えA先生に参加を促すMRと、先生の悩みに沿った案内でWeb講演会が先生にとって自分事であることを伝えるMR。どちらの案内が、医師の参加意欲を高めることができるかは明白です。「ハイパフォーマンスMRは、本社から提供される情報だけでなく、自主的に論文・学会情報・医師のプロファイルなどの付随情報を調べ情報提供を進めています。情報を受け取る医師の立場に立ち案内することができるので、医師からの信頼も高まります」と笹木氏。

うしたハイパフォーマンスMRが自主的に行っていた付随情報の収集を、全てのMRに等しく提供できれば、MR全体の機能強化につながります。そのツールの一つが、「学会情報データベース」です。

「学会情報データベース」活用で、MRの情報武装を強化

「学会情報データベース」には、どれほどの情報が集積されているのでしょうか。

年間1400も開催される学会情報をデータベース化

年間いくつの学会が開催されているかご存知でしょうか。「日本国内の医学系学会は、地方会や小規模の研究会を含めると、年間1400大会開催されています。1大会の演題数は、大きな学会では3000(口演、共催セミナー、ポスターセッションを含む)、演者数(共同演者、座長等を含む)は2万人に上ります」(笹木氏)。

このように大量の学会情報の中から、担当医師の情報をMRが収集することは容易ではありません。しかし、「学会情報データベース」を活用すれば、効率的な情報収集が可能になります。

「学会情報データベース」でMRの情報武装を支援する

「学会情報データベース」を営業支援ツールと連動させれば、担当医師・担当施設の学会発表状況を能動的にMRに通知し、すぐに情報を確認できる環境を構築できます。MRは情報収集から解放され、本来の業務である医師とのコミュニケーションに力を注ぐことができます。笹木氏は「論文情報に比べ学会情報は発表頻度が高く、PubMedのようなデータベースは存在しません。医師の学術活動に関する情報を全てのMRに等しく提供することで、MR活動をレベルアップできる」と語ります。

では、「学会情報データベース」は、MR活動のどの部分で活用されるのでしょうか。笹木氏がMRの活動計画を下図で説明しました。

「ある調査によると、MRの面談人数は平均9.2人/日、面談時間は平均5分以内といわれています。短い時間で適切な質問をし、医師のニーズを把握し、製品の差別化につながる情報提供を行うには、事前準備やシミュレーションが重要となってきます」と笹木氏。

「学会情報データベース」の活用で、訪問計画・活動計画から導入トークまでのプロセスを効率化することが可能です。結果的に、MRは医師との面談に注力できます。

「学会情報データベース」の支援内容の具体例

「学会情報データベース」を活用した具体例を、笹木氏が図を用いて各段階別に説明します。

①訪問計画・活動計画時

関係性が弱い薬剤部の学会情報を知ることで訪問計画に役立てたり、過去の学会情報から講演会の座長と演者のベストな組み合わせを立案したりすることが、「学会情報データベース」の活用で効率的にできるようになります。

②訪問準備時・導入トーク考案時

「学会情報データベース」の利用で最も多いのが、「担当医師の学会活動情報を漏れなく事前に把握したい」というケース。実際に「医師とのコミュニケーションがしやすくなった」と現場からの声があるそうです。

「『学会情報データベース』の活用は、これまでも学会情報を自主的に収集していたMRにとっては、時間の節約に。収集していなかったMRにとっては、情報武装の強化につながる」と、笹木氏は話します。

③導入トーク時

上図以外にも、担当医師やMRのニーズに応じたさまざまな活用シーンが想定でき、対象の薬剤領域や担当の営業地域によっても、活用方法は異なります。注力領域やMRの課題・実情に合わせ、自社にとってのベストプラクティスを構築することが、「学会情報データベース」活用のカギを握るといえそうです。

社内システムと学会情報データベースのデータ連携について

最後に、各社のシステムと「学会情報データベース」のデータ連携について、笹木氏が紹介しました。

自社活動情報(オウンドメディア閲覧ログ・MR活動など)や基本情報(医師・施設)と「学会情報データベース」を紐づけて、DMP(Data Management Platform)やDWH(Data Ware House)に連携。CRM(Customer Relationship Management)やSFA(Sales Force Automation)上で、情報をMRに通知する仕組みになっています。「学会情報データベース」を直接CRMツールへデータ投入したり、メールなどでMRに直接通知したりすることも可能です。