製薬企業の日常業務を効率化するオペレーション構築とは

定常的に発生する作業の効率化や、継続する業務から生じた課題の解消を図る際、オペレーションの最適化は有効な手段の1つです。オペレーションを最適化することによって、各作業工程が無駄なく連携して効率化され、業務品質や生産性向上につながるだけでなく、よりクリエイティブな業務に人や時間などのリソースを割くことができます。本記事では、オペレーションの基本的な考え方から、オペレーション構築・改善の具体的な方法を紹介します。

オペレーションとは

オペレーションという言葉は、状況や業種によって、「機器の操作」「軍事作戦」「外科手術」など、さまざまな意味で使われます。企業では「マニュアルに沿った作業」や「業務フローに則った進行」など、定められた手順や流れに従った活動を指す言葉として使われるのが一般的です。

本記事では、それらの活動を全体視野で捉え、オペレーションを「業務目標を達成するために、あらゆるリソース(人材・技術・情報など)を活用して、効率的に業務を遂行する体制を構築・運営すること」とします。

オペレーションは製薬業界にとっても「企業活動の土台」

企業が活動する際に、あらゆる場面で日常的に必ず発生するのがオペレーションです。オペレーションを効率化して改善することで、コストが最適化され、業務品質や生産性の向上が期待できます。これは製薬企業でも同様です。その結果、顧客満足度の向上や組織の機動力アップにもつながるため、オペレーションの改善は、企業活動の土台強化に欠かせないものといえるでしょう。

オペレーション改善の進め方に絶対の定石はない

念頭に置くべきは、オペレーション改善の進め方に絶対的な定石はない、ということです。例えば、オペレーション改善の際に「既存の作業をデジタルシフトする」という手段を取ることが多くありますが、デジタルシフトを実現すれば、すべてが改善するわけではありません。

以下でオペレーション構築の方法の例を紹介しますが、進め方に決まりはありません。
自身のチームにおけるオペレーションを改善するのであれば、まずはチームが達成すべき目的をゴールとして設定します。目的設定後は、チームやメンバーを取り巻く状況や業界特性、チームや企業など組織の規模、文化も含めて考慮した上で、改善の手順や方法を設計する必要があります。

オペレーション構築の際には目的を言語化する

オペレーションの改善や構築を行う際には、まずは目的(ゴール)を明文化します。
ここでは、携わっている業務や事業で、達成すべき目的はなにか、を明らかにしましょう。目的を達成するために各 業務を最短で遂行し、高品質の結果を出せるように設計した結果として、作業が効率化されます。

目的を言語化することで、常に目的を明確に理解した状態で思考できるため、判断を要する時など、方向性のブレを防げます。また、アイデアも浮かびやすくなるでしょう。

目的は関係者全員で共有する

目的は、チームメンバー含め、関係者全員に共有しましょう。チームワークが機能し、人的なリソースを最大限に活かしたオペレーション体制を構築できます。

チームの目的を理解しているメンバーは、目的に達成するための行動を、自主的に考え、判断して工夫することができます。よって、チームやメンバー間で目的がすり替わる、細かい質問が増える、マニュアルに書いていないことやイレギュラーな事態に対応できない、といった弊害が生じにくくなります。

オペレーション構築の要は「業務設計」

オペレーション構築の要となるのが業務設計です。業務設計では目的を意識することとともに、社内外の状況の変化に備え、長期的な視野を持つことが重要です。

フローチャートで業務を可視化する

業務を設計する際に有効な手段の1つとして、フローチャートによって業務の流れを可視化する方法があります。組織や時系列の全体を俯瞰して把握できることが最大の利点ですが、必要に応じて他部署へ連携協力を依頼する際の説得材料にも使えます。

フローチャートは人の動き、ツールの機能の活用の仕方、データの蓄積・出力方法など、すべてのリソースを視野に入れて、スタートからゴールまで一気通貫で作成することが重要です。関連部署はもちろん、協力会社との連携状況も記載します。目的を果たすための要件を満たしつつ、最短、かつシンプルな業務フローを設計し、チャート図にします。
フローチャートには多様な形式があるため、業務内容や使いやすさに合わせて選ぶと良いでしょう。

フローチャートイメージ

現状の業務の見直しポイントを発見できることも、フローチャート作成のメリットです。現状を見直す時のポイントは5つあります。

1.重複

同一の情報を格納するツールが2カ所に存在している場合には、情報の正確性や最新性が維持されていない可能性があります。また、同一の情報を入力する作業が2度発生していることになり、人的な作業リソースの無駄が生じています。
フローチャートでは上記のような重複を洗い出したり、作業の流れに分断がないか、ツールに無駄が生じていないか、などをチェックします。

2.複雑な分岐

フローチャート内の分岐で多数の線が発生する「タコ足」状態が発生している場合には注意が必要です。フローチャートを作成している人が業務を把握できていない、もしくは実際の業務が複雑になっていると考えられます。

データフロー図(DFD)のようにタコ足状態が当然である場合を除き、可能な限り、分岐が2択になるようにフローチャートを作成しましょう。2択にできない場合には、工程に問題がある可能性があります。その場合の解決策は後述します。

3.野良ツールの存在

フローチャートを作成することで、野良ツールが必須のツールとなっている環境が見つかる場合があります。野良ツールの例として、長年使われ続けてきた管理者不明のマクロなどが挙げられます。情報セキュリティの観点からも、野良ツールから会社が導入を承認したツールへのリプレイスを推奨します。

4.自動化できる工程はないか

フローチャートで規則性のある繰り返し作業や、傾向性の似た作業を見つけた場合には、自動化を検討してください。AIやRPAを導入することができれば、大幅に業務の自動化・効率化を図ることができます。
自動化はAIやRPAの導入という大規模なものだけではありません。EXCELの関数を工夫する、テンプレートを整えるといった簡単な作業で「小さな自動化」を実現できることもあります。自動化できる工程を見つけた場合、積極的に試してみましょう。

5.目的の達成につながっているか

フローチャートを俯瞰し、目的の達成に必要な情報や工程のヌケモレがないか、あるいは無駄な工程がないか、確認しましょう。

コンプライアンスを意識する

業務設計の際には、コンプライアンスに留意し、法令で定められた義務を果たせる体制になっていることを確認しなければなりません。

例えば、個人情報を業務で扱う場合には、個人情報保護法で義務づけられている様々な作業が発生します。コンプライアンスのために必要な作業をおこなわなければ次の工程行けないようにするなどして、漏れのない体制を作る工夫をすることも大切です。法令以外にも、業界基準や規格なども視野に入れ、考案していきます。

課題の抽出

オペレーションにおいては、業務設計時から運用開始後も、課題が頻出します。見つかった課題はリスト化して、1つずつ対応していきましょう。課題は、重要度、緊急度などに応じて、優先順位をつけて対応していきます。課題の優先順位付けは、合理性を重視します。

課題の解決、優先順位付けのフレームワークとして、2つの例を挙げます。

1.ロジックツリーで要因を明らかにし、対策を考案する

課題の解決策を導き出すためのフレームワークの1つに、ロジックツリーがあります。課題の要因を分解し、単純化しながら追求していく方法です。「なぜ?」という問いを繰り返すことで、課題が生じた要因を掘り下げ、根本的な原因が出てくるまで繰り返します。

原因の本質が可視化されたら、1つずつ原因に対する対策を出します。内容が単純化されていることで、解決策を導き出しやすくなります。

ロジックツリーイメージ

2.優先順位付けのマトリクス

課題の発生要因にたいする解決策が出揃ったら、どの策から着手するか、優先順位を付けていきます。緊急度と重要度のマトリクスや、スコアリングを活用すると、合理的な判断ができます。指標は、緊急度と重要度の他に、解決によって得られる効果の大小や、解決に要する難易度など、内容に応じた軸を設定しても良いでしょう。判定や数値化は主観にならざるを得ないため、関係者複数でおこなうと、より有効です。

これにより、すぐにでも解決を要するもの、先送りできるものなどが判別でき、適切なリソースの確保・配分とスケジュールの立案に進めることができます。

マトリクスイメージ
スコアリングイメージ

必要なリソースを揃え体制を構築する

業務の体制構築の際には自社に適したリソースを確保する必要があります。ここではツール、人材、場所や環境、マニュアル、コストという5つのリソースを挙げます。

ツール

オペレーションをサポートする優秀なツールが数多くありますが、「これを導入すれば全てが解決する」といった万能のツールは存在しません。しかし、使用するツールの数が少ないほど、管理・費用面でも効率が良く、情報の格納先の一元化が容易になります。
「業務を集約できる」という基準でツールを選定するのが望ましいでしょう。

人材

誰かがいないとチームが回らず、目的を果たすための活動ができない、という状態にならないようにしましょう。業務が個人に依存することのないように、組織として対応できる人材配置、アサインメントを行う必要があります。また、個性による適材適所を考慮することも重要です。チームが最大のパフォーマンスを発揮できるように、業務フローの各工程に、人材を配置します。時には、チームメンバーの状態にあわせて、業務フローの方を調整する、といった柔軟さも必要です。

業務によっては、協力会社へ業務委託などの発注を検討したほうがよいものもいくつかあります。
1つ目は、ルーティンワークです。該当する仕事を専門としている協力会社があれば、費用、品質とも、社内で対応するよりもパフォーマンスの良い結果を期待できるでしょう。
2つ目は、シーズンによって量が変動する作業です。社内でその作業に必要な人員を維持すると、業務量にかかわらず、そのコストがかかり続けますが、協力会社との連携体制を整えることで、業務量に応じたコストのコントロールが可能になります。

場所や環境

業務を効率的に進めるには、オフィスやPC、ネット回線などの業務環境も重要な要素になります。昨今の社会情勢の変動から、リモートワーク体制を整えなければならないケースも増えています。
情報システム部門や人事・総務部門と連携を取りながら、業務の目的を達成するための最適な環境を整備することも、オペレーションの役割です。

マニュアル

マニュアルは、業務の体制作りの一角を担っています。マニュアルは編集しやすく、かつ、読み手が目的の手順書にたどり着きやすい環境、検索しやすい環境に置くのが良いでしょう。

マニュアルは日常的に加筆修正を繰り返し、育てていくものです。マニュアルの品質を担保するためには、目的を達成するための業務手順が記載されていること、読めば業務を進められる状態になっていることが大切です。

コストをどこにかけるかを広い視野で見極める

オペレーションではコストをどこにかけるかの判断が重要です。例えば、ツールの選定や協力会社への発注をする場合には、「単発の費用」か「長期に渡り継続的に発生する費用」かも視野に入れて、費用のかけどころを見極めなければなりません。

ビジネスの規模が拡大した場合に、売上が上がった分だけ、費用も上がり、粗利は変わらないといった結果を招かないように注意する必要があります。ビジネスの規模が拡大しても、定常的に発生するコストの上がり幅を抑制し、時間の経過とともに粗利が大きくなる体制作りをするのが、オペレーションの醍醐味でもあります。

オペレーションは日々アップデートしていく

オペレーションに「完全」という状態はありません。社会情勢の変化やテクノロジーの進化によってアップデートしていくものという認識を持ちましょう。常にトライアンドエラーを繰り返し、課題があると感じたならば、要因を明らかにし、合理的に解決を図ることが求められます。

例えば、イレギュラーな問題が多発して非効率になっていると感じたならば、その時点でイレギュラーではない可能性を考えましょう。判断のために、発生しているイレギュラーを記録し、全体を俯瞰して傾向性を把握します。イレギュラーを傾向によってグルーピングすることで、グループ単位で対応する策を考案し、ルーティンに落とし込むことが出来る、すなわちレギュラー(定常)の業務にできる場合があるからです。その結果、コストや作業負荷が軽減し、効率化を図ることができます。

オペレーション改善・構築において重要なのは、「何のためにこの業務を行っているのか」「目的を達成する有効な手段になっているのか」を意識して考えて、1つずつ対応していくことです。
オペレーションは日常業務を効率化する役割を果たしますが、オペレーションの改善にゴールはありません。企業の土台の強化をするためには、オペレーションを日々アップデートしていくことが求められます。