MDMD2022Springレポート/データに基づく医師ターゲティングのベストプラクティスとは

2022年5月に開催したオンラインカンファレンス「Medinew Digital Marketing Day 2022 Spring」。本セッションでは、ファイザー株式会社の安ヵ川純氏が、「学会や論文情報を活用し、製造販売承認前にターゲット医師の選定・優先順位付けを進めた。確度の高いコマーシャルプランの立案で、承認後にスタートダッシュを切る体制を整備できた」とデータを活用した医師ターゲティングの経験やメリットを解説しました。

疾患や薬剤に関する医師の情報入手手段の変化

コロナ禍を受け、医師の情報収集方法やニーズにも変化が生じています。

安ヵ川氏は、株式会社エム・シー・アイ(MCI)が提供する『医師版マルチメディア白書』の「メディアマインドシェアと接触時間の推移」のデータから、医師が情報収集に利用するメディアの変化を指摘しました。メディアマインドシェアとは、情報入手における全媒体を100%としたときの各メディアが占める割合で、”情報の影響度”を表します。

医師のチャネルニーズの変化
2022.05.26 ファイザー(株)「データに基づく医師ターゲティングの ベストプラクティスとは」資料より抜粋

『医師版マルチメディア白書』2009年2月号のデータによると、医師のメディアマインドシェアを最も占めていたのはMRの約40%で、接触時間シェアの最多はインターネットサイトの約30%でした。情報の影響度はMRが最も高いものの、接触時間シェアの結果から、2009年時点でデジタルプロモーションに対するニーズの高まりがうかがえます。

2021年冬号のデータによると、医師のメディアマインドシェアと接触時間ともに最多を占めるメディアはデジタル系(インターネットサイト、インターネット講演会)にシフト。MRのメディアマインドシェアは約21%に落ち込むなど、医師の情報収集メディアが大きく変化していることが分かります。

安ヵ川氏は、「情報収集のデジタル化は新型コロナウイルス感染症の影響と思われがちですが、流行前にもデジタルプロモーションのニーズは高まっていた。本来数年かけて起こる変化が、コロナ禍により加速したと考えられる」と見解を示します。

質を重視した情報提供活動が求められている

医師の情報収集チャネルの変化に伴い、医薬品のプロモーション活動を「量」から「質」重視へと変換させていく必要があります。従来のマルチチャネルから、医師のニーズに合わせたオムニチャネルによる情報提供が欠かせません。

安ヵ川氏は「特に、医師数と患者数が限定されるスペシャリティ領域で、質を重視した情報提供活動が求められている」と指摘します。

従来の医師ターゲティング手法の課題

スペシャリティ領域では、優先的にアプローチすべきターゲット(TG)医師を選定することが求められます。特に新薬の上市時など、新たな疾患・領域への参入の場合、関連情報の蓄積がない中でTG医師を選定する必要があります。標準的なプロセスは以下の通りです(下図)。

  • 市場データからTG施設を選定
  • MRによるTG施設へのヒアリングを通じ、対象患者数などを把握
  • 自社製品の処方ポテンシャルからTG医師を決定
従来のTG医師決定のプロセス
2022.05.26 ファイザー(株)「データに基づく医師ターゲティングの ベストプラクティスとは」資料より抜粋

上市後、速やかに患者に新薬を届けるには、製造販売承認前であっても、処方ポテンシャルの高い医師を選定し、優先順位を付け、コマーシャルプランを作成する必要があります。

施設選定は、既存の定量的なデータがあるため比較的容易かつ正確です。一方、MRによるヒアリングは、製造販売承認後でないと活動ができず、MRのスキルによって情報精度にばらつきが生じます。新規参入領域の場合、そもそも医師とのコンタクトがないといった課題もあります。

TG医師選定に必要な4つのデータ

こうした課題に対応するために、ファイザーでは「AIを用いたターゲット分析」を進めています。複数のデータをAIが分析し、データに基づいて客観的な優先順位を付け、TG医師を選定します。 活用したデータは、以下の4つです。

  • 顧客属性:年齢・役職、診療科、専門・資格、施設情報
  • 市場データ:売上や診療データ、DPC公開データ、厚生労働省のオープンデータなど
  • 治療実態(Doctor Mindscape)
  • 医師の学会発表情報/論文発表情報(学会情報データベース/論文情報データベース)

安ヵ川氏は、「治療実態(Doctor Mindscape)」と「医師の学会発表情報/論文発表情報(学会情報データベース/論文情報データベース)」の活用について解説しました。

医師データから処方医モデルを作成

「Doctor Mindscape」(インテージヘルスケア提供)は全国約1.5万名以上の医師に対し、年に2回、疾患別に薬物療法実態を確認しデータベース化しています。

ファイザーでは「Doctor Mindscape」を用い、以下の3ステップで処方医モデルの作成とTG医師の選定を実施しました。

  1. 「Doctor Mindscape」から導かれた医師データから、新薬の処方医モデルを作成
  2. 全国30万名の全医師データに対し、処方医モデルとの類似度をAIでスコア化
  3. 算出されたスコアに閾値を設定し、TGを選定

「学会情報データベース」「論文情報データベース」で医師の重要度・影響力を重み付け

「Doctor Mindscape」を用いて処方ポテンシャルのあるTG医師をリストアップすることは可能ですが、優先順位付けには限界があります。TG医師の施設内の重要度や領域の専門性・影響力を反映し、製造販売承認後、優先的にアプローチすべきTG医師を選定することは、プロモーション戦略上、重要なアクティビティです。

同社が医師の重要度や影響力を測るデータとして活用したのが、医薬情報ネットが提供する「学会情情報データベース」と「論文情報データベース」です。

学会情報データベースは、国内の医学系の学術集会や海外の学術集会の演題情報のデータベースです。口頭発表、ポスター発表、スポンサードセミナーなど、抄録集・プログラム集に登場する全ての演題を対象に、医師名、所属施設名、著者順、セッション名、演題名などをデータ化しています。
論文情報データベースは、日本人医師が英語で書いた論文をMEDLINEから抽出し、論文名、著者名、所属施設名、著者順、書誌事項などをデータ化しています。

これらのデータベースを活用し、TG医師を学術的な側面から重みづけし、より重要度・影響度の高いTG医師を抽出しています。

学会情報・論文情報の活用方法
2022.05.26 ファイザー(株)「データに基づく医師ターゲティングの ベストプラクティスとは」資料より抜粋

安ヵ川氏は、「学会情報や論文情報を活用することで、承認前の段階で、優先順位の高い重要な医師を選定することができます。効率的かつ最適なコマーシャルプランを立案できるので、承認直後から処方の最大化向けた活動を展開できるメリットは大きい」と話します。

さらに、「学会や論文情報を活用してベストプラクティスとして確立した手法は、新薬上市時だけでなく、既存製品のTG医師の見直しや新たなTG医師の選定、未来のKOL候補の抽出にも適用可能とみている」と期待感を示します。