【コラム】JMDC COOに聞く!患者啓発に使えるリアルワールドデータ 

【コラム】JMDC COOに聞く!患者啓発に使えるリアルワールドデータ 

(株)JMDCのCOO杉田氏が、製薬企業におけるリアルワールドデータ(RWD)などデータ活用のヒントをお伝えする本コラム。
最近ますます薬剤での適切な治療を患者に届けることのみならず、デジタルやマーケティングを活用して早期診断や予防などの患者啓発に力を入れる企業が増えてきたように思います。今回は患者啓発においてリアルワールドデータを活用した事例に触れてみます。

これまでの「JMDC COOに聞く!」コラムはこちら


杉田:JMDCのCOOの杉田と申します。今月は「患者啓発に使えるリアルワールドデータ」というテーマでお話したいと思います。最近ますますペイシェントセントリシティの方向性で、製薬企業が医師の処方に影響を与えようとするのではなく、患者さん側の知識や認識に働きかけることで、行動変容を促そうとする例が増えてきた気がします。その中でリアルワールドデータがどのように使えるかということを弊社の事例に基づいてお伝えしたいと思います。

穴吹:製薬本部マネージャーの穴吹と申します。本記事では私がインタビュワーとなって、進めていきたいと思います。よろしくお願いいたします。それでは早速ですがそもそも患者啓発が必要な場合、患者啓発を行った方が良い場合というものを教えていただけますでしょうか。

杉田:患者啓発は色々な理由で行われますが、主には患者さんの健康に向けて適切な行動がとられていない場合にその行動変容を促すために行われます。

例えば、下記のような場合に患者啓発の効果が大きいと思います。

  • 特に症状のない生活習慣病患者で通院を途中でやめてしまいがちな場合
  • がんや認知症のように運動や食事などの生活習慣で発症をある程度抑制できるが、それがあまり行われていない場合
  • 専門医でないと適切な診断や治療が難しい希少疾患患者で、専門医に受診できていない場合

このような場合に、直接患者の行動変容を促すべく、ウェブサイトやCM、アプリなどで、通院のメリットや予防の大切さ、もしくは重症化した時のリスクなどを伝えることが主に行われていると思います。

―実際に自治体などで行われているがん検診の受診の通知なども患者啓発運動の一種ですね。それではそこにおいてリアルワールドデータはどのようにして活かせるのでしょうか。

杉田:穴吹さんもご存じのようにJMDCでは、健保などをサポートしておりますので、健保の活動の一環として直接患者啓発をおこなっています。正確にいうと健常者の方々への働きかけも入るので必ずしも患者啓発だけに留まらないのですが、健保加入者の方々の健康に資するサービス提供をしています。

こちらの図をご覧ください。こちらは特に生活習慣病周りにおいてJMDCが提供しているサービスの一例を図示したものになりますが、真ん中のところに、未把握、正常から生活機能の低下まで、8つのステージがあるのをご覧いただけますでしょうか。

JMDCの介入サービスの全体像

こちらは生活習慣病に関して、健康診断の結果や、そもそも健診を受けている受けていない、治療を受け続けている、途中で辞めている、もう心筋梗塞まで至ってしまっている、などレセプトデータや健康診断結果のデータをフル活用して、個人個人をステージごとに分類したものになります。

それらのステージによって個人の方の考え方や行動というのは大きく違っていますし、知るべき情報も違ってきますので、それらの方々の行動が変わるように適切なコンテンツやアプローチを検討し、受診を促す通知を紙で郵送したり、アプリやウェブを通じて、運動を促すようなインセンティブを与えたりということを行っています。

―そうですよね。JMDCはリアルワールドデータ事業よりも、むしろ健保の方々のそういった加入者を健康にするための保健事業をサポートする業務の方が、歴史としては長いですし根幹に近い部分な気もします。他にはどういった使い方があるのでしょうか。

杉田:上記はデータを用いて、対象となる患者をステージで区分して適切なコンテンツを実際に出しわけている事例でしたが、他には、データを用いてそもそもどの部分に患者の行動変容が必要かということをみるという事例があります。

こちらは、数十人の潰瘍性大腸炎患者の受診行動を図示したものになります。一行一行が患者一人一人を意味していて、1マスが1ヶ月になります。色が塗られているのが処方があった月で、緑が低分子、赤やオレンジがバイオ製剤になります。また、セル内の点や丸でGP受診かHP受診かを見分けています。

潰瘍性大腸炎患者におけるバイオ製剤の使われ方イメージ

こちらを見ていただくと、一定程度バイオ製剤を使われている患者もいますが、低分子内服だけで過ごしている患者もかなり多いことがわかります。また、GPで低分子を数年処方され続けて、HPに紹介になった瞬間にバイオ製剤に切り替わっている患者も散見されます。ここからいくつかのことが仮説として考えられるのですが、バイオ製剤の適応の状態なのにGPを受診しているがゆえに、バイオ製剤が処方されず、より重症化して手に負えない状態になってからHPに紹介されている患者がいる可能性があります。そうすると、そういったGP囲い込み患者に対して、バイオ製剤という選択肢を啓発することは意義があることになります。

―なるほどですね、確かに患者個人個人の行動を追うことによってより啓発すべきポイントがクリアになりますね。

杉田:そうですね、実際の患者さんの行動を知らずには、啓発はできないと思いますし、データのさらに良いところは、啓発によってその行動を変えるとどの程度のインパクトが出るかが試算ができるところになります。

上で述べた二つの事例で申し上げると、生活習慣病の8つの各ステージに当たる方がどの程度存在するか、GPに囲い込まれていそうな患者が全体の何%ぐらいいそうか、という部分は定量的に分析で知ることができますので、そこを10%改善できたらどの程度のインパクトが出るかというのは試算できます。

製薬会社が行う患者啓発においては、もちろん患者さんの健康に資すること、そもそも病気にならないようにする運動は行うべきだと思うのですが、一方でその啓発運動にどこまでの資金や期間を割くかは、啓発の結果どういう結果が得られるかによると思います。データを用いるとそれが事前に知ることができるので非常に活用いただきやすい点かなと思います。

―ありがとうございます。それでは今回もこのあたりで終了とさせていただければと思います。次回もよろしくお願いいたします。

▷記事提供元は こちら (JMDC REAL WORLD)